シネマフィリアvol.2 Dope
日本のオタク事情とアメリカのオタク事情では異なる。日本のオタクと聞くと先ず出てくるのはアニメオタクだ。しかしアメリカのオタクは時代遅れの凝り性の奴らのことを言うらしい。2 live crewやA tribe called questなどを愛する90年代のオールドスクールラップオタクの主人公マルコムは冴えない黒人の童貞だ。勉強が得意な彼はヒップホップが好きなのになぜかパンクバンドをやっていたり、ファッションもボックスヘアにシャツインしたジーパンとダサイし、黒人らしさのない変わりもののマルコムは学校でいじめられる。
通常の黒人映画であれば貧困、ギャング、ドラッグ、暴力など若者の怒り、反骨、差別が注目されがちだが、この映画はギャングやドラッグ、暴力があふれる町の冴えない黒人オタクや黒人のレズビアンなどらしくない登場人物なのである。
劇中の音楽もファレル・ウィリアムスが監修ということなので90年代のヒップホップアンセムが流れる。NASやBLACK SHEEPなどが流れる。主人公たちがパンクバンドをやっているのもファレル・ウィリアムスが昔、N・E・R・Dというバンドをやっていたからなのだろうか?
舞台はロサンゼルス市中心街のイングルウッドという所。ここでは黒人が多く住み、治安が悪い。ギャングたちの抗争も絶え間なく発生し、序盤で友達がファーストフード店で射殺されたことをさらっと流すぐらいに治安が悪い。そんな町に住む主人公のマルコムは成績優秀だ。彼はこの町から出るためハーバード大学を志望するが教師からは冷たい反応をされる。しかしひょんなことでギャングのリーダー格とヒップホップで意気投合する。そのギャングのリーダー格のパーティーで偶然、ドラッグを大量に入手してしまう。前半部分は主人公と彼の友人を含めた三人組の青春ドタバタものだったが、後半部分から入手したドラッグをハイスクールのオタクという立場を利用して学校では怪しまれずに荷物検査をされずに、ビットコインやSNS、サイエンスコンテストなどを利用して売りさばいていく頭脳派クライム映画になる。とくにビットコインを利用して現金を得る手法は本当に今の闇のお金の手法なのだろう。
そして最後はなんとしてでもハーバード大学に行きたい主人公のマルコムそ自分が黒人としてこの映画を見ている観客にこの主人公マルコムを「何者か?」と問われる。
黒人だけどギャングじゃない、ヒップホップは好きだけどパンクバンドをやっている。音楽はやっているけど、ミュージシャンになりたい訳じゃない、ギークではあるけど、ITの知識は人より少し知っている程度で卓越したプログラミングがある訳でもない。そんな黒人の町で黒人らしくならなかった彼を観客はどう映るか?最後はまるで面接の自己PRのようだった。結局、この映画では黒人らしいというステレオタイプとの向き合い方の映画である。ハーバードの合否もこちらに笑顔を向けるだけでこれは不合格で諦めの笑顔なのか、合格して喜んでいる笑顔なのかは観客に委ねられている。
それとアメリカの受験の実態が見れるのも面白い。序盤に主人公が一脚されるがエッセーや学生時代の成績、その学生の間になにをしていたのか。このあたりが受験一発勝負の日本とではアメリカが長期的スパンで日本が短期的スパンと全然違う。