第6回もう一度まなぶ日本近代史~進撃の大老~

文:なかむら ひろし

 今回は、最初にロシアについて触れておきたいと思います。

日露和親条約

 アメリカと日米和親条約を締結した後の1855年、ロシア使節エフィム・プチャーチンと日露和親条約を締結します。(このときプチャーチンとの交渉に当たり、調印したのが川路聖謨)この条約の内容は、基本的に日米和親条約と同じなのですが、一点だけ大きく異なります。それは、国境の画定です。

1.千島列島の択捉島以南は日本領
2.得撫島以北をロシア領
3.樺太は従来どおり雑居地(日露両国人が居てもよい、明確に境界を設けない)

 是非、お手元の地図帳などで場所を確認しておいてください。この後もロシアとの国境については何度か出てきますので、その都度確認しておいてください。ちなみに現在の北方領土問題に関しての根拠のひとつとなっているのがこの条約です。
 この時のロシアはクリミア戦争の最中で、あまり強く出てきていないのが特徴です。その後のロシアは、えげつないことをしてきますから・・・

将軍継嗣問題

 阿部正弘存命中から争点となっていたのが将軍継嗣問題です。13代将軍徳川家定(宮崎あおいさんが大河ドラマで演じた篤姫の旦那さんです)は、病弱で子供もいなかったため、そう先は長くないだろうと次期将軍を誰にするのか決めておく必要がありました。
 越前の松平慶永、薩摩の島津斉彬、土佐の山内豊信ら雄藩の藩主は、聡明な一橋慶喜を推し(一橋派)、彦根の井伊直弼ら譜代大名は、血筋から徳川慶福を推し(南紀派)、激しく対立していました。
 ということになっていますが、実際は南紀派というのはありません。徳川慶福を次期将軍とするのは主流であり、規定路線なのです。皇位継承順位と同じように将軍に関しても絶対的な血統主義です。はっきり言って、この将軍継嗣問題は一橋派が難癖をつけただけなのです。

堀田正睦の憂鬱

 日米和親条約により駐日総領事として下田に駐在していたタウンゼント・ハリスは、1857年に江戸で将軍に謁見すると、予てから目論んでいた通商条約の締結を迫ります。交渉に当たったのが阿部正弘の死後、幕府の最高責任者となった老中首座の堀田正睦です。
 内容は後で触れますが、この通商に関する条約が大変不平等な内容だったため、堀田は勅許(天皇の許可)を得てから締結するといいます。幕府は政治を任されているので、幕府の権限で条約を結んでしまったら問題はなかったのですが、都合が悪くなると責任を朝廷に持っていくというやり方には問題がありました。
 堀田は朝廷に工作を仕掛けますが、孝明天皇や公卿の岩倉具視らの反対に遭い、結局勅許を得ることはできませんでした。朝廷だって泥を被りたくはありません。

井伊大老爆誕

 そんな中、阿部正弘に罷免された開国派老中松平忠固は、堀田正睦によって老中に返り咲くと、大奥などに工作を仕掛け、彦根藩主井伊直弼を大老に就任させます。大老とは、臨時に置かれる幕府の将軍に次ぐ権力者で、実質幕府の最高責任者になります。
 堀田の心中はいかに・・・という感じですが、肩から荷が下りたという気がしなくもないです。弁解しておくと、堀田は別に無能だったというわけではありません。老中首座になるくらいですし、地元ではその手腕を発揮しています。そもそも、こんな時に国の最高責任者とか難易度高すぎの無理ゲーです。

やりたい放題の列強

 少し国外に目を向けると、こんなことが起こっています。
 1857年、インドでイギリスに対する反乱、セポイの乱が起こっています。これにより、インドを支配していたムガール帝国は滅び、イギリスによる直接統治が行われるようになりました。
 また1856年から1860年にかけて、清と英仏が激突したアロー戦争が起こります。当然、清が勝てるわけもなく、北京条約を結び、半植民地化が進みます。さらに戦ってもいないロシアにアイグン条約を結ばされ、沿海州を持っていかれます。さすがロシア、まさにヤクザの手法です。ちなみに沿海州のウラジオストクは、後に日本と激突する舞台となります。

井伊直弼強行

 大老に就任した井伊直弼は、強攻策に出ます。1858年、ハリスが清の惨状を引き合いに条約締結を迫ると、井伊直弼は井上清直、岩瀬忠震に交渉を命じ、条約調印も許可します。ここで日米修好通商条約を締結します。
 さらに将軍継嗣問題に関しては、朝廷に工作し、徳川慶福を次期将軍に決定します。直後に家定が亡くなり、慶福は徳川家茂と改名し、わずか13歳という若さで14代将軍となります。
 井伊直弼は、阿部正弘の協調路線を踏襲せず、強攻策を選び、「決められない政治からの脱却」を行ったのです。

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赤鬼の一喝で強攻策を実行。「井伊の赤冑」を継いだひこにゃんも実は怖いかもしれない。

 長くなってしまったので日米修好通商条約の内容については、次回お送りします。反撃に出る一橋派とそれを迎え撃つ井伊大老との戦いの結末は・・・

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