オタクたちの消費行動と『けものフレンズ』の大ヒット

文:田渕竜也

オタクたちの二次創作

オタクの消費行動には『シミュラークル』という言葉の概念が要となっている。シミュラークルとはフランス語で「虚像」「イメージ」「模造品」などを意味し、20世紀フランスの哲学者たちが用いた言葉である。要は創作物の全てはコピーであり、あらゆるものは実体をもたいない記号であり、記号が一人歩きして実体が喪失してしまうと。世にあるあらゆるものが複製品に過ぎない、ただ反復されているという趣旨である。そしてこのシミュラークルで集積された記号は使い回され、オタクたちは動物の餌のようにこの記号を消費していく。現在でもネットでは二次創作が溢れてあり、これらは記号の再利用に他ない。

なぜ『けものフレンズ』はここまで成長できたのか?

 その中でも2017年の『けものフレンズ』の大ヒットはこの虚像という『シミュラークル』が大きく関係している。『けものフレンズ』のヒットの要因は作品全体の「ツッコミどころ」だろう。
 物語はサバンナのような場所で記憶をなくした主人公「かばん」が、擬人化した動物たち”フレンズ“と出会い、自分が何者なのかを探るロードムービーである。食料も安定的で弱肉強食もないフレンズ達。しかし人類という存在が見当たらない。さらにエンディングの廃墟ばかりの画像が穏やかなディストピア性を予感させ、ネット上で「なぜ?」というこの問い発生する。『けものフレンズ』の世界の謎や主人公の正体の謎がネットの考察する人たちにとってこの説明されない世界観が飽きずに作品から離させない要因になっている。
それから2017年というのに低予算の90年代のビーストウォーズレベルの3DCGアニメで第一話から漂う草むらをつるつると走る3DCGの動きの不自然さや緩さ、しかし。これらの作品の謎さが『けものフレンズ』という作品にツッコミ感を視聴者は感じる。そしてこの登場するキャラクターがケロロ軍曹でおなじみの吉崎観音なのだが、このキ吉崎観音のャラクター達は線が少なく丸みをおびたデザインが特徴的なので模写がしやすい、そしてさらに登場するキャラクターがかわいらしい女性キャラしかいないので二次創作しやすく、けものフレンズのストーリーのツッコミどころと合わさって、TwitterなどSNS上で放送直後の即日でも考察漫画やキャラクター同士の百合漫画などを公開することができた。
 そして台詞にも注目すべき点がある。この物語には主要登場人物である「サーバル(ちゃん)」がよく使う「すごーい」「やったー」「きみも○○のフレンズなんだね」などの「フレンズ語」という存在がある。これらのLineのスタンプのような西野カナの『Have a nice day』の歌詞のような短くまとまった言い方を悪くするとポジティブなIQの低い台詞が頻繁に登場する。これらをTwitter上などのSNSで真似をする人が増えて行き、フレンズ語がネット上で多く拡散されるようになった。
 これら『けものフレンズ』の世界を考察する人、二次創作でイラスト、漫画を描く人、SNS上でフレンズ語で会話する人たちがまるでイワシの群れのようになり、一つのムーブメントとなりただのアニメを観るだけのファンでなく、『けものフレンズ』という作品の消費行動に繋がって行った。

田渕竜也のTwitter

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