シネマフィリアvol.8 ポンコツクソ映画特集 『ヒメアノール』

文:田渕竜也

ここは法治国家だぜ?

 今回の作品は一般の批評サイトなどでは結構高い評価をされている。しかしどうもこの作品は納得いかないのだ。
 どんな過去やら事情であれこの国が法治国家である以上、殺人、放火、レイプなど犯罪を犯した時点で犯罪者だし悪人は悪人である。裁きは受けるべきで、これはゆらぎの無いものだ。ウルトラマンのジャミラだって人類に復讐にやってきたから駆除された。ハッキリ言って今作に苛立ったのはそういった過去の事情と少しの良心を持ち出して同情を醸そうとするところだ。犯罪を過去のトラウマで感動を見せてくる「クライムポルノ」といってもいい。こういうところが邦画のクライム系映画の本当にダメなところだと思うよ。どうせやるならダークナイトのジョーカーとか『時計仕掛けのオレンジ』のアレックスぐらいに目的の無い暴力を徹底的にやるべきだ。その方が不道徳でまだ観ていてスッキリする。

やっぱこれ悪趣味映画だよ

 ストーリーは大体、最近のバイオレンス系にありがちの日本社会に於ける底辺層の話だ。この作品の序盤は濱田岳が演じるビルの清掃員として働く岡田とカフェ店員ユカと岡田のビル清掃の先輩で最近、芸人面して観ていてうんざりするムロツヨシが演じる安藤の三人が中心に話が進む。基本、序盤はラブコメチックである。しかし、モテない、童貞、底辺の癖になんで登場人物の服装はみなオシャレでしわの一つもないのか。本当にモテ貧困層の童貞な人物ならもっと服のみなりなんて気にしない。よくてPIKOのTシャツやBAD BOY USAのTシャツにダンロップの靴などだろう。
 この三人ともう一人出てくる中盤以降、話の中心となる森田剛演じる森田である。彼は過去に高校生のときにいじめにあっており、岡田はそのときの同級生である。彼はカフェ店員のユカにストーカーをしている。ユカは岡田にストーカーについて相談していくにつれ次第に引かれ合って行くのだが、なぜこういう映画はちゃんと警察に相談するとか引っ越すという発想がないのか。せめてオートロック付きマンションにでも引っ越せよ。そして岡田とユカが親密になる中盤でユカと岡田のセックスシーンがあるのだけど、外にまであえぎ声が聞こえるってどんなアパートだよ。レオパレスかよ。AVじゃねんだぞ。そこで案の定、岡田とユカが付き合っていることを森田は知ってしまう。この時の殺しの標的が岡田になるときに顔付きが変わるところでタイトルが入る。ここから『ヒメアノール』本編という演出はすごく秀逸だった。
しかしだ、ここのセックスシーンに対する監督の悪趣味的美徳感が強い。例えば岡田とユカのセックスシーンと森田が自分を襲撃してきた男女を殺すシーン。女性をバットのようなもので殴りつけて女性が失禁しているシーンと岡田とユカのセックスシーンを交互に流すことで森田の快楽と岡田の快楽をクロスさせ見せるシーン本当に悪趣味。

お前のやってることはただの頭のおかしい犯罪者だ

 ここまでいろんな登場人物が出て来てそれぞれしっかり描写しているようで結構雑い。高校の時のいじめとか。「過去にこんなことがありましたよ」「岡田は実はいじめに加担してましたよ」って言われてもしっかり描写してくれないとやっぱり雑い。それにこの森田いくら「過去のいじめによるトラウマが」って言っても、彼が犯す残虐な殺人やレイプ行為など犯罪の数々はただの第一級の犯罪者だ。なんというかここにはなんにもメッセージ性もないし、「過去にいじめがありました」といっても「いじめダメ」っていう訳でもないし。ただ過激な映像を作りたかっただけじゃないのかね。森田とはなんの関係のない人まで殺される。モブキャラの登場人物が登場すると「あっ、この人殺されるんだな」って思うぐらい命が軽すぎる。まぁバイオレンス映画だからしかたないし。あの終盤さえ無ければこれはこれでよかった。

無能警察24時

 それとこういうバオレンス系の邦画でよくありがちなのが、無能すぎる警官。よく殺されるよね警察。この映画では連続殺人犯という第一級の犯罪者に警官一人のこのことやってくるし、しかも無線も拳銃もない警官が事情聴取を森田に行うんだけどすぐ殺されてしまう。いくら憲法9条があるからって平和ぼけすぎる。しかもこの映画の全編でも警官役が無能すぎる。ショッカーレベルですぐ殺されるし、なんも抵抗もしない。これだったらペッパー君の方がマシというレベル。

やっぱここ納得いかない!

 それからやっぱり終盤が納得いかないよな。最後に岡田と森田が車の中で戦うんだけど、道ばたに犬がいて森田はそれをみてハンドルを切って犬を轢かずにすむんだけど、てめぇ始めっから少しでも犬を轢かない良心があるなら始めっから人殺すな、レイプすんな、人のアパートを燃やすな。ここまで非道をやってきてシリアルキラーとかいうならもういっそのこと犬を轢いてしまえばこの辺りと映画全編通して納得できた。しかし犬を轢かないっていうことでここまで殺された、犯された、燃やされた人たちはこのたった一匹の犬以下、ペットの命以下という意味になってしまう。なぜ、ここに感動できる人大勢いるのかが理解できない。
 それから最後のシーンの高校時代の岡田と森田の麦茶とってのところ。最後の最後に昔は良い奴だったみたいな終わり方。なんで酷い殺し方とかしていた奴が最後にいい思いして終わるんだよ。反吐が出る。

良かったところ

ただやっぱりV6森田剛の演技は良かったと思う。けどこういうアウトサイダーな役結構やってたしなって思うよな。それとムロツヨシの棒読み演技はなんか面白くていいよな。ムロツヨシが助かってよかった。

田渕竜也のTwitter

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