シネマフィリアvol.9 ポンコツクソ映画特集 『偶然にも最悪な少年』

文:田渕竜也

90年代の思い出

 たまに思い出すのだけど、90年代終盤〜00年代序盤ってなんかものすごく小汚かったことを思い出す。チーマー、ルーズソックス、ガングロ、汚ギャル、援交、プリクラ、汚いプリン状態の金髪。まぁGLAYの『サバイバル』のPVを観れば分かりやすいと思うけど、なんか汚い。さらに小説『Deep Love』とかいう援交でエイズで死ぬ自業自得でしかも疫病を大都会東京でまき散らしてバイオハザードさせた話がヒットしたり、今は亡き飯島愛さんの自伝的小説『プラトニック・セックス』の大ヒットでこういった家出、援交、レイプ、自傷行為、暴力、万引きなどネガティブイメージがまるで若者のアクセサリーのように登場して、後の「ケータイ小説」のブームの火付け役にもなった。
 丁度その頃、日韓合同開催のFIFAワールドカップの影響があったのだろうけど、00年代前半はやたらと在日日本人を題材にした映画が沢山つくられた。『Go』 、『パッチギ』など、そしてこの『偶然にも最悪な少年』もその00年代序盤の2003年に公開された映画である。

さっぱり分からんこの映画の話

 ストーリーは一言で言ってしまえば「姉とセックスした主人公である弟がその姉の死体と共に道中いろんな犯罪行為を犯しながら九州へ向って韓国へ運ぶ。うぇーい!」というクライム/ロードムービーである。もうこのあらすじの時点で何をどうしたいのかよくわからないし意味不明である。一応は「祖国を見せにいきたい」という目的はあったみたいだけど。それにオチが結局、「韓国へ行けないんかい!」っていうオチだし。それとこの監督、死体の扱い方しらないんじゃないかと思う。普通、ドライアイスとかをつめないと死臭が半端じゃないよ。あの九州へ行く車の中、悲惨なことになるよ。
 この映画ってテーマが沢山登場しすぎる。不登校、いじめ、民族、離婚、万引き、近親相姦、恐喝、暴行、自傷、自殺、ドラッグなどが欲張りすぎるぐらいに登場する。この90年代終盤から00年代序盤の小汚いネガティブイメージをごちゃまぜにした結果、こんな「偶然にも最悪な映画」が出来上がってしまった。まさにキメラ作品である。この主人公、在日韓国人ということでいじめられていることになっているのだが、在日うんぬんの前に、主人公の態度や行動が観ていて一々イライラさせられる。へらへらした態度やなんか変な犯罪行為に「そりゃそうなるよ」と感じてくれる。
 さらに、この映画ってチーマーとか変なギャルとか変なチンピラとか結構、登場人物が多いんだけどこいつらの「日常生活」が全く分からないまま話が進んでいく。もうチンピラはチンピラというそのキャラクターのままでなので、言ってしまえばなぜか村にいて村人Aのままのドラクエの村人みたいなものだ。失敗版『池袋ウエストゲートパーク』である。
 そして中島美伽の存在もよくわからん。というより必要性がわからない。しかも俳優ではない故に台詞が何を言ってるのかも分からない。あいつはなにがしたいんだよ。何者なんだよ。万引きの常習とか男の人を背中に飛び蹴りとかしているけどグレた過程とかが全く描かれてなくて、こいつの存在って一体、何なんだよ。さっぱり分からない。

なんかノリが軽すぎるよね

 なんだかこの作品の全てに於いて悪い意味で制作者側の「軽いノリ」っていうのが伝わってくる。テーマは沢山あるけど結局、何を目的として登場人物が動いてのかさっぱり分からない。登場人物は多いけどこいつらは一体、何をしようとしているのかも分からない。登場人物同士の会話は全く成立しない、会話のキャッチボールもままならい会話のドッヂボール状態。無駄に出てくる柄本明、津川雅彦、大滝秀治などの大物俳優。『ガキの使い』の年末特番じゃないんだから。
 そんな「軽いノリ」で作ったクライム/ロードムービーを制作した結果、こんな意味不明でデタラメな映画作品になってしまった。目的がさっぱり分からないから視聴者は意味不明で話を観る事になり、ストレスにしかならないし、登場人物の行動も全て「軽いノリ」で意味不明なのでやっぱり観てる側はストレスになる。ある意味、この「軽いノリ」っていうのが当時の00年代序盤のチーマーや若者とかの流れだったのかもしれないが…

一応、良いところもあるんだぜ?

 散々こき下ろしているが評価できる点ももちろんある。後に成功する蒼井優や永井大、松山ケンイチ、後にやらかす小出恵介などの若手俳優たちがちょい役で登場する。蒼井優さんはマヨネーズぶちまける意味不明なキャラでインパクトはあったし、他の俳優はエンドロールで「あっ、出てたんだ」と思うレベルで確認できる。
 それから楽曲がよかった。当時、インディーズで人気のあったフーバーオーバーや浅井健一が率いるSHERBETS、JUDAの楽曲、RIZEのJesseが率いるGICODEの楽曲など00年代序盤の新鋭でイカした音楽を起用している。サントラは素晴らしい!

結局、この映画って何なの?

 そういえばこの映画のタイトルって『偶然にも最悪な少年』だったけど、これのタイトルの意味が分からない。そもそもこの主人公のどこが最悪なのだろうか?姉が自殺してしまったことなのか、はたまた変なチーマーグループと関わりを持ったことなのか、それともこの主人公自体が最悪な奴なのか?この映画のノリなのか?まぁ、本当に最悪なのはこの映画を観てしまった視聴なのだけど。
 終わり方は最初のシーンに繋がる終わり方だけど、ここまでこの映画にイライラさせられて、こういう粋なことをしても結局「でっ?」ってなる。しかもキャラクター全般に於いて愛すべきキャラがほとんどいないので全くこの映画の最後に悲しさも何も微塵に感じられなかった。これも「軽いノリ」で作ってしまったから別にキャラの一人や二人死んでもなんとも感じなかったんだと思う。
 こういうクライム/ロードムービーを観るぐらいなら『テルマ&ルイーズ』か『トレインスポッティング』を観たほうがいい。ただ『偶然にも最悪な少年』のサントラだけは素晴らしいよ。『偶然にも最高なサントラ』である。

田渕竜也のTwitter

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