シネマフィリアvol.14 もっと評価して欲しい映画特集 『CASSHERN』

文:田渕竜也

2004年の邦画界

2004年、それは未曾有のレジェンド級映画が量産された年だった。『デビルマン』、『キューティー・ハニー』そしてこの『キャシャーン』である。『キャシャーン』は当時の年間映画批評では年間ワースト映画では『デビルマン』に次ぐ第二位であった。たしかに当時、「アニメ!●●を最新鋭技術で実写化!」っていう触れ込みで「実写化映画」というものは現在に比べて期待値は高かった。「だってあの『デビルマン』を実写化だぜ?」ってなぐらいにアニメ実写には期待をしていた。しかし蓋を開けてみればCGの技術なんてハリウッドの足元どころか地上にすら出られないセミの幼虫状態、いやテッシュに吐き出された精子ぐらいだし、予算のかけ方も下手くそ。作品の思想性も弱い。そんな実写化スクラップ作品が今日に至るまで肥溜めが溢れんかばかりに制作されている。話はかなり逸れたが、世間的にはクソ映画という刻印をされた紀里谷監督の実写版『キャシャーン』。しかしそれはどうだろうか?今の邦画界なんて見てみなよ。一見、予告の顔のどアップが川越シェフの顔かと思った山田涼太主演『鋼の錬金術師』、毎度、ファイナルと謳う終わります詐欺映画「High&Lowシリーズ』。制作費が少ないと愚痴を垂れ流す『進撃の巨人』など、どうだろう?それらに比べれば遥かに『キャシャーン』のメッセージ、作家性の強い作品はそれほど悪いものではないように思えないだろうか?

大体のストーリー

一応、大まかにストーリーを言っておくと大亜細亜連邦という大国がある世界で、遺伝子工学を研究している東博士は「新造細胞」を発表する。しかし「新造細胞」は周りの学者から実用化を否定される。残念だね。しかし、大亜細亜連邦の軍は「新造細胞」に目をつけ研究を再開させる。一方、東博士の息子・鉄也は父に反発し軍隊に入隊するが、鉄也は死んでしまう。鉄也の遺体が陸軍本部に届く頃、変なイナズマが新造細胞の研究施設に落ちると、異変が起こり始める。新造細胞の実験に使われた死体が勝手に動き出したのだ、まさにウォーキング・デッド。軍は即刻「汚物は消毒だ!」と言わんかばかりに蘇った人間たちを虐殺する。その中から逃げ延びたブライキング・ボスとそのゆかいな仲間たちは「新造人間」と名乗り、人類への復讐を宣言するのである。そんでついでに新造人間になった鉄也は彼らと戦いの中に身を置くことになるのである。というのが大まかなストーリー。
とりあえず言っておこう『キャシャーン』は名作だ。ギレン総帥のように言っても聞いてくれる人なんてほとんどいない。だって正直、話が面白くないじゃん。だってストーリーが国土のほとんどが深刻な環境汚染によって公害病が蔓延していたり、人種階級差別を肯定した政策により、反発派と内紛が発生したり、クローン作ったりなど。もう2000年代序盤の社会科の教科書に載っていた「世界の諸問題」みたいな項目を全てぶち込んだような世界の設定だ。まぁ安直といえば安直な社会思想性。もう登場人物たちが皆そろって、社会への主張したいことは口で言わないと気が済まないぐらい主張をする。その中でも『キャシャーン』のラスボス的な存在である唐沢寿明が演じるブライキング・ボスの「我々は生きている」っていう人間への復讐を誓う演説は主張しあう登場人物のなかでも監督・紀里谷ポエムが素晴らしくハマっていてすごくかっこいい。だけどなんども言うようだけどこの映画はみんな登場人物が主張しあうんだよね。だからものすごく説教くさい。まぁそれはそれでいいんだけど。でもそんなドストレートなメッセージ性が却ってメッセージ性皆無な21世紀以降の邦画界に於いてはかなり新鮮に見えて個人的には好きなんだけどな。

映像はかっこいいよね

邦画の映像って退屈な映像美の作品って多すぎやしませんか?すっごい平面的で埃っぽいコントラスト低めの映像、そんな邦画って多くないですか?でも『キャシャーン』は違う。平面的ではあるけどあえてアニメに近い形をとり、東欧の共産国家のプロパガンダポスターみたいな平面的な赤と黒を基調とした色数の少ない映像にスチームパンクを融合させた退廃的世界観はさすがミュージックビデオ出身の紀里谷監督。撮りたい映像のセンスは素晴らしい。それに紀里谷監督は写真家でもあるからワンカットワンカットは凄くかっこいいんだよね。まるで写真集のような感じで。例えばキャシャーンとロボット兵軍団withブライキング・ボスの戦うシーンなんてCG自身は安っぽいんだけど一つ一つの画面レイアウトがかっこいいから全く気にならないんだよね。キャシャーンのチョップでロボット兵を真っ二つにするカットとかメチャクチャかっこいい。

役者について

それから役者もいいよね。上条ミキオが大亜細亜連邦の老人たちに向かって刀振りかざしてクーデターを宣言するところで高笑いする及川光博のかっこよさは異常というべき。それから唐沢寿明が演じるブライキング・ボスの演説。この映画、とにかく及川光博と唐沢寿明がかっこいい映画でもある。

総論

そういえばこの映画がよく失敗と言われているけど興行収入は15億円以上というそこそこ成功しているんだよね。それに基本的に話が全編に於いて痛快なヒーローものではなく、暗いペシミズムに覆われているから頭の悪い恋愛映画が主流の邦画のメジャーシーンでは異例なぐらい成功したと言っても良い。その点で名作と言っていいだろう。

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