シネマフィリアvol.15 なんでもできます人間、経営者に向いてない説『マイ・インターン』

文:田渕竜也

理想の上司像ってみなさんはどんな人ですか?

よく理想の上司像ランキングみたいなものに登場するのは篠原涼子に天海祐希、そしてひと昔でいうと江角マキコなんかが上がってくるけど、こういった「なんでもできます」みたいな人間の下で働くのは正直いってしんどいと思う。だって考えてみなよ。アンフェアの篠原涼子とかストロングゼロのCMの天海祐希なんて本当にパワハラだよ。ああいう自称おっさんタイプはむしろめんどくさい面のほうが大きい。ただその側近に柄本明さんみたいな人がいれば変わってくる。今回取り上げる『マイ・インターン』はこういったなんでもできます人間の隙間みたいなものを補うシルバー雇用者っていうところだろうか。話はメッチャ単純でファッションサイトで成功したアンハサウェイがシルバー雇用者のロバートデニーロを雇った結果、いろんな助言とビジネスの立ち振る舞いを教えてくて職場の雰囲気もよくなり、アンハサウェイとロバートデニーロは家族ぐるみの中になるといったところ。とにかくこのデニーロには欠点が無さ過ぎる。品のいい知性的で紳士なじいさんで仕事もちゃんと遂行できて周りの若いスタッフの輪にも難なく入ることができる。なにがあってもキレないし、極めつけは女性とホテルでベッドの上でも下心なしでビジネスフレンドとして接する。始めはアンハサウェイが扮するジュールズに意図的に仕事から干されていたんだけど、全く感情的になってキレたりしない。こんなパーフェクト超人なシルバー雇用者なんていねぇよ。もはやラノベとかなろう小説だ。ソードアートオンラインのキリトさんばりに無敵すぎる。まぁデニーロだから許される設定なんだろうな。これが北野武とかだったらもう「Fuckin’japぐらい分かるよバカ野郎』でブラザーになってしまう。

経営者に向いてない社長「なんでもできます人間」

この映画で厄介なのはアンハサウェイ扮する女社長のジュールズだ。バリバリのベンチャー企業のワンマン社長ということでかなり意識が高い。会社の移動も時間の無駄ということで自転車で移動する。まぁこの設定は最初のシーンだけで以後のシーンでは全く使われなくなるんだけど。ていうか逆に邪魔臭いよ。それに時間の無駄という割には電話対応、顧客対応を自ら行い、さらに工場まで出向くなど平社員の業務もする。もう時間を無駄にし過ぎだし、忙しいんじゃなくてスケジュール管理が下手すぎなんだよなこの社長。結局、このジュールズって超人でありたいという理想像の上で成り立っている「なんでもできます人間」なんだよね。だから会社の中を自転車で移動するなんていう超人的社長を演出するパフォーマンスみたいなことをする。
それに社員間で会議をやっても社長の承諾なしにオッケーが出ない上、会議室で社員達はボーって社長の帰りを待っている。見通しのいいスタイリッシュな職場を作ろうとしている割にはこの会社の業務効率が悪すぎる。この映画の中で社員の人たちから「14時間働いた」とか「7時出社で23時に帰る」なんてちらほら漏れてくる。典型的なブラック企業じゃねぇか。
ただこの会社、忙しそうな人と暇そうな人との差が激しすぎるところもあるから、結局、人物の仕事量と適正性を全く把握できてないんだよね。ほらやっぱりブラック企業じゃねぇか。それでも笑顔で仕事をする社員ってこの会社、結構ヤバいんじゃないだろうか?一人の社員がマーケティングと秘書を兼ねてるところを見ると結構この会社って離職率が高いと思う。
まとめるとジュールズって社長向きではないんだよね。だからあの会社の社員は外部から社長を迎えることを勧めていたんだと思う。だってこんな無茶な社長のままだと絶対、下の社員がついていけないし有能だった社員も逃げて行く。「自分ができることを平然と要求する」これが出来ます人間のキツいところだ。だから管理職業務と営業業務、作る業務は分担するべきなんだよ。これが理想の上司像とするならかなり苦労するだろうと思う。

輪を乱すものはサーチ&デストロイ

しかも序盤、老人が苦手ということでデニーロを仕事から干すから、少なくともこの社長はいい人ではない。人間というのは自分の集団とは違うものを排除しようとする性質がある。これは集団に愛があればある程この傾向にある。特にこの映画ではカジュアルな服装でデジタルな職場環境の中でデニーロはスーツ姿でペンとノートを机に出すアナログなじいさんなんてこのオシャレな職場環境を守るためこの輪を乱すものとしてはじかれる。この輪から人をはじくという理屈はいじめと同じなんだよね。だから「守る」という正義は決して人に対していいことではないんだよね。ただここで幸運だったのはデニーロには柔軟性があったことと、他の社員がいい人たちだったことだろう。デニーロはちゃんとこの環境に適応するためデジタルに対応できるよう努力をした。この職場の人たちもデニーロについてちゃんと教える。これができたからデニーロは輪に入ることができた。これができないアナログ頑固一徹じいさんで何も教えない職場だったらこの「干す」といういじめがエスカレートしてもっと過激なことになっていたと思う。ただデニーロがほかの社員からいじめられなかったのはひょっとしたらジュールズって案外、下の社員に慕われてなかったのではないかと思う。だってそれぞれの仕事の不満も悩みも社長に打ち明けることが出来ずみんなデニーロに相談するし、普通の会社だったら上司の動きは絶対だからみんなジュールズ側につくけどこの映画ではそうならなかった。もしかしたらこの会社の社員はデニーロを育て上げ優秀な参謀としてジュールズのワンマン体質を解消させようという意図もあったかもしれない。

いろいろ言ったけど

まぁ近年、高齢者が増える日本でシルバー雇用、シニア雇用なんて言葉を聞くことができるようになってきたが、この動きを回すにはこのマイインターンばりに周りの平社員がいい人たちと柔軟性に富んだシルバー雇用者があってようやく成立する。でないとなにもできないただのものいいじいさんとなって終わる。やっぱりこのシルバー雇用、シニア雇用という動きは難しいものだ。
まぁいろいろ言ったけど、この映画自体は面白いよ。

それではまた次回

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