世界に広がるデスメタルの輪/ボリビア編
今更、何もドヤ顔でいうことではないけど、デスメタルという言葉には「デス」という「死」という意味合いの言葉が含まれている。「デス」という言葉が入るのだからそれだけ激しい音楽なのであるが、そんなこと今時の小学生でもこの「デスメタル」というキーワードを聞けばわかるはずだ。じゃあ、その逆のバラードばかりのハードロックはリヴィングメタルとでも言うのだろうか…?そんなことはない。それはただのボン・ジョヴィだ。それにしてもデスメタルって何をもって「デス」なのだろうか?まぁ「激しい」と言う意味としての「デス」ではあるけど、それだったら「ヴァイオレント・メタル」でもいいはず。いや、もっと奥を突き詰めて考えるなら、そもそも「デス」が意味する「死」とは一体、なんなのだろうか?
「生」という終わりを意味する「死」と逆の言葉で考えてみるなら、「生」は生まれた国、環境、家族、資本によるスタート時点ですでに格差がある。家が裕福であれば人生イージーモードだし、戦争の激戦区に生まれたならハードモードだし。そもそも人間か動物かはたまた植物に昆虫ともう生まれた時点で命は平等ではない。しかし「死」というものは動物だろうが植物だろうがみな平等にやってくる。みな平等に苦しみ、恐怖し、死んでいく。これはどの社会的階級が高い人でもどんな貧しい人でも生きていればいずれは平等にやってくる。いくら資本を積んでも、先端技術、見えざる力へ祈っても「死」と言う終わりからは逃れられない。だからこそ「死」というものほど平等なものはこの世界において唯一といってもいいかもしれない。どの生物にでも永遠というものはないやがて終わりがくる。
デスメタルはどんな人でも生物でも植物でもどの宗教の人でも貧乏でも金持ちでも平等に訪れる「死」というモチーフがあるからこそ、この世界の秘境的な場所でもデスメタルバンドが存在するのではないだろうか?ある意味、デスメタルの「デス」は世界共通の価値観としてすごく平和的な言語なのかもしれない。
ボリビアと聞いてみなさんは何を思い浮かべるだろうか?まぁせいぜいウユニ湖ぐらいだろうか?タバコの名産地とか、あとはチェ・ゲバラが処刑されたところだろうか?一昔前、日本でチェ・ゲバラがプリントされたTシャツが流行っていたことがあった、いまでも街中歩いてるとたまに見かけることもあるけど…。ところでそんなTシャツにプリントされたチェ・ゲバラって何していた人か知っていますか?一言で言うといろんな国々で革命を指導した革命家。まぁいろんな国家からしたらかなりヤベェ奴。「じゃあ具体的になんの革命をした起こした人なの?」 って言われると、一番有名な話としては1959年1月1日にキューバで当時の親米政策をとり、アメリカからの援助をうけつつ独裁体制の強化を図っていたバチスタ政権をチェ・ゲバラがフィデル・カストロとラウル・カストロの兄弟とともに武装闘争を起こし、打倒したキューバ革命の人というのがよく知られているだろう。日本史でいえば西郷隆盛なんかに近いかもしれない。
そんなチェ・ゲバラがなぜボリビアで処刑されたのか?1966年、当時のボリビアはレネ・バリエントスの軍事政権による独裁であった。この時期のボリビアは軍事政権側の軍部とボリビア共産党と対立しており、この頃のアメリカは「共産主義になってソ連側につかれるのは困る」ということで軍事政権のボリビアを支援していた。今の時代ならアメリカが軍事独裁政権に支援するってすごく変な話だけど…。チェ・ゲバラはボリビアに潜入してボリビア民族解放軍(以降、ゲバラ軍)を設立し、ゲリラ戦を行うけど、アメリカの支援を受けているバリエントス政権はゲバラ軍を追い詰めた。ボリビアの鉱脈労働者からは支持されていたゲバラだけど、農民からは嫌われていた。何しろバリエントス政権は農民からは人気は絶大であった。1967年、ボリビアの農民によって密告されたチェ・ゲバラはボリビア政府軍に捕らえられた。アメリカにとっては目の上のたんこぶだし、中南米のアメリカから支援を受けている軍事政権はちょこちょことゲリラ戦をされては困るので、チェ・ゲバラは生け捕りから処刑された。
その後のボリビアは1969年にバリエントスはヘリコプターの事故によって死亡し、もう少し先の1978年にアメリカ:ジミー・カーター大統領の主導によって民主化が始まった。現在、ボリビアではエボ・モラレスという人が大統領をしていて彼自身、元コカ農家ということも、あってコカ栽培の法律の緩和に踏み切っている。しかし勘違いしていけないのはコカ栽培はあくまでコカ茶にして飲んだり、口の中で噛んだりする嗜好品であって、コカの葉から麻薬成分を抽出し、コカインを生成することには反対している。ボリビアは現在もラテンアメリカ貧国の一つである。ちなみに約一万人強の日系ボリビア人が現在もいて、日本人町もある。
それではそんなボリビアのデスメタルバンドをいくつかピックアップしていく。
SUPRESSOR – Asesino por Naturaleza
スキンヘッドのギターボーカルがイカしてるボリビアのラパスで結成されたバンド。スラッシュメタルなサウンドでめちゃくちゃテクニカルなフレーズが出てくるわけではないけど、ワーミイーペダルを使ったギターソロとかブレイクダウンの挟むタイミングが抜群に上手い。そんで聴きやすい。けどボーカルはかなりブルータル寄り。DEICIDEなんかが好きな人にはおすすめ秘境デスメタル。
Xerbeth – Victoria Satanica
デスメタルじゃなくてブラックメタルだよね。まぁ細かいことは気にすんな。一般の人にはデスもブラック同じイメージだから。簡単なデスとブラックの違いを言うと白塗り、アンチクライスト、汚い音質の音源がブラックメタル。ノーメイク、ノンポリ、複雑な楽曲構成がデスメタル。Xerbethは音の感じはメタルというよりパンクに近い。
Catharma – Darkness Walker
初期In Flamesを彷彿とさせるメロディック・デスメタル。すごく北欧っぽいです。音源を聞いただけだったらラテンの国のバンドなんて思えないぐらい北欧っぽいです。すごくギターがメロディックでかっこいいです。
ALCOHOLIKA LA CHRISTO – I AM BOLIVIA
これもデスメタルじゃないよな。出だしの笛から漂うコルピクラーニ感。例によってPVがどこからツッコミを入れたらいいのかわからないぐらいカオス。なんだこの大量の笛を演奏している人たちは。しかもこの合成感。なんかいいよねこのダサさ。
Estertor – The Follower
Children Of Bottomが好きな人にはおすすめできるメロデス系。すごくギターのメロディーもキャッチーで聞きやすい。こちらもCatharmaと同じくラテンの国のバンドと思えないぐらい北欧っぽいです。ギターソロながっ!?
今回、取り上げたボリビアの5つのバンドにお気に入りは見つけられただろうか?「メロデスなんてデスメタルじゃない」「ブラックメタルじゃねぇか」なんていう人もいるだろうがそんな細かいことは気にすんな。やってるバンドの本人達が一応デスメタルって言ってるし…。
ボリビアのデスメタルの印象としては他のラテン国のデスメタルバンドに比べてゴア成分が少なく割と聞きやすいメロディックなバンドが多いというのが筆者の印象だ。みなさんはどうだったでしょうか?少しでもボリビアのデスメタルに興味を持ってくれれば幸いです。