/ Column

夏フェスの時代

文:田渕竜也

君と夏フェス

平成最後の夏といわる2018年の夏。フジロックにサマソニ、ロッキング・オン・ジャパン・フェス、みなさんは夏フェスに行きましたか?海、バーベキュー、夏祭り、花火とまるでケツメイシの歌詞に出てきそうな夏のパリピイベントの中に盛り込まれる程に成長した夏フェスは1997年に開催されたフジロックを皮切りに以後、様々な夏フェスが開催されるようになった。現在では規模大小問わず合わせると7月、8月合わせて65以上のフェスが開催されるほど、この20年で国民的夏の娯楽へと急成長した。CDが売れないと言われている昨今、ライブ経済は2016年の市場規模は3200億円と言われている。この数字はCDのセールス、そして音楽ソフトやビデオを合わせた2457億円よりも大きく上回る数字である。この数字をみればもう家に篭ってCDを聞くというより、「ウェーイ」でフェスにいって不特定多数の人たちとドンチャン騒ぎで楽しむというパリピ的な消費の傾向が音楽業界では強い傾向にあると言える。なので今後、音楽の楽しみ方はライブでの楽しみ方がバンド運営において重要になってくる。例えば今、フェスに引っ張りだなバンドというとヤバイTシャツ屋さん。このバンドなんかはめっちゃ大学のサークルみたいな「ウェーイ」な感じで意味のない歌詞と演奏の勢いだと、もうこのバンドはフェスで聞くということが前提になってくる。それに打首獄門同好会っていうバンドにおいても同じで大した意味のない歌詞と勢いある演奏。あえて歌詞の面でもう少し突っ込むなら歌詞の偏差値の低さがポイント。歌詞の偏差値が低いからこそあまり意味を考えたり、聞いて感傷的にならずに観衆が勢いだけでノリやすい。これはNHKのおかあさんといっしょと同じですよね。こどもに限りなくノリやすくするため大した歌詞には意味はない。だからこそ夏フェスで「うえーい」となりやすいし、観衆が謎の振り付けなんかをやりやすくノリやすくなっている。こういう偏差値の低いノリが強いバンドこそ、夏フェスウェーイ時代の現代にあっているのではないだろうか?

地域が鍵を握る夏フェス

話をもう少し真面目な経済の話をしよう。2018年のフジロックは12万5000人が来場した。交通が不便な新潟県の苗山という田舎の地域でこの数字はミラクルと言えるぐらい成功している。フジロックの経済効果は30億円以上と言われていて、フェスの開催期間には、周辺の宿泊施設や飲食店、小売店などに人で賑わいが生まれている。苗山の場合、冬はスキー、夏は夏フェスと季節ごとに形を変えて地域の賑っている。また、ロッキンフェスの方も茨城県ひたちなか市で毎年開催され、こちらも右肩上がりに来場者を増やしていて、地域経済に貢献している。このように一地方の片田舎にとって、夏フェスは税収や来場者による地域の賑わいといった面で、観光ツーリズム的で非常に魅力のあるコンテンツであると言える。だから夏フェスを開催されるその地域である必然性を有していることも重要なポイントになっている。ただの何もないど田舎じゃ行く意味が全くないですからね。
少し前までは夏フェスといえばフジロックとサマソニが二大夏フェスみたいな力関係にあった。そんな中、今日に至るまでに夏フェスは生まれては消えて失敗していく傾向が続いている。例えば今となってはもはや伝説と言われる「ウドーミュージックフェスティバル」、そのウドーの前身フェス「ロックオデッセイ」、J-POPをメインにした「GO!FES」など様々なフェスが生まれては失敗して死んでいった。
夏が繁忙期である夏フェスはとにかく日本全国、フェスだれけで、それぞれ激しい競争環境にある。それだけに出演するバンドのブッキング競争も激しいし、広告合戦の競争も激しい。だからこんなにフェス毎週のように夏になると夏フェスが開催されるのだから、数多いフェスの中、突発的でコンセプトがハッキリしにくいフェスは失敗する傾向にある。例えばフジロックの場合、不便な山奥を武器にライブ鑑賞だけではなく、森林浴やキャンプといったアウトドアを満喫できる行楽イベントという形でコンセプトを作って今日に到るまで主にリピーターを増やして行くことで大成功を収めている。しかし「ウドーミュージックフェスティバル」や「GO!FES」のように突貫工事のようにかつてロックに思いを馳せたロックジジイに送るフェスとか、なんとなく今、そこそこ売れているJ-POPを集めただけのフェスだと失敗する。だってロックジジイにしてもJ-POPファンにしても「野外でフェスを楽しむ」という考えがないでしょ?ウドーミュージックフェスティバルの場合、KISSとかThe Doobie Brothersを聞くロックジジイ連中が炎天下の中、夏フェスなんか行かないでしょ?それに泉大津フェニックス・富士スピードウェイで開催されたウドー・ミュージック・フェスティバルにしても幕張メッセで開催されたGO!FESにしても開催地がその地域である必然性も全くないから地域との密着性もない。
そして近年は北海道で開催される国内最大級の野外オールナイトフェス「RISING SUN ROCK FESTIVAL」や「京都大作戦」、香川県で開催される四国最大のフェス「MONSTER baSH」など、サマソニに代表される交通網の便利な都市型フェスから地域に密着した行楽イベントとしての観光型フェスに移行しつつあると思う。
そのフェスのコンセプト移行時代を強く表したのが2017、2018年のサマソニの集客が減った要因の一つに思える。そもそもサマソニのコンセプトが交通網が便利なこともあって「敷居の低さ」が売りであった。ブッキングしてくる人もGreen DayとかOffspringのような洋楽入門みたいなバンドやBlack Eyed PeasやAriana Grandeのようなパリピ入門みたいな人たちも呼ぶ、誰でも音楽を楽しめるごちゃ混ぜフェスだ。だけど都会で真夏にフェスに行っても音楽だけで強いていうなら、都会の人と「ウェーイ」だろう。
そんで今のフェスのトレンドとしてサマソニに足りないのは地域密着と行楽だ。サマソニではキャンプもできないし、近くには有名な温泉もない。地域の特産物があるわけでもないし、ただライブに行くだけだ。これが今、サマソニが観客減少にある要因ではないだろうか?
いいアーティストを揃えてもその地域に行く意味をつけないと人がこない。そして夏フェスを行楽化することでコミュニティができてさらにリピートが強くなる。これが近年の観光ツーリズム型夏フェスが強い要因ではないだろうか?だから夏の行楽要素が強いからこそ日本では秋、冬、春のフェスはなかなか浸透しない。夏以外にフェスをやったほうが天候によるフェス中止や炎天下を回避しやすくていいと個人的には思うのだけどね…。

終わりに

私はバンドをやっていた身でありながらライブというノリがわからない。みんななんか知らないけど曲知ってるし、みんななんか変な振り付け見たいなのを知っていて、踊るし手を振るしで一体どこでそんなものを教えてくれるんだと…。どうしてそんなに楽しそうにみんなノレる?私はいまだにそのノリがわからない。そしてまた「あぁ、今回もノレなかったな」と自問自答しながら電車に揺られ帰って行く。
いや、まぁ好きなバンドの好きな曲を聴いてズドーンみたいな感じとか「ウォーー」みたいな感じならわかる。しかしどうやったらみんなそんなに変な振り付けとか手を降ることができるのか?むしろ自分のノリが間違っているかどうかが気になってしまう。
そんでここまでフェスに関することを書いてきた。一つ、理解してほしいことがある。それは話の中で出てくる「バンドやってるなら夏フェスとか行くよね?」みたいな会話。私は一言言いたい「バンドやってるやつらがみんな夏になると夏フェスに行くと思うな」と…。

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