最近のヴィジュアル系うますぎ。テクニカル型ヴィジュアル系バンドのススメ
少年少女と「ヒーロー」
『ヴィジュアル系バンド』、現代の私たちの過ごす日常の中ではもう死語と言っても過言ではないようなジャンルである。ヴィジュアル形バンドのブームは確かにあった。Shazna、Malice mizer、Luputaなどが活躍した90年代終盤とナイトメア、Kagrra.、ガゼットなどが活躍した00年代中盤付近で実際には二度ブームがあった。
中高生の少年少女たちは常に、つまらない日常から救い出してくれる何か面白い存在を探し求めている。時代によって「探し求めるもの」はツッパリだったりチーマーであったり学生運動であったりするわけだけど、この二度のブームの中、少年少女たちには「ヴィジュアル系バンド」というものに集中した。なぜそうなったかは当サイトのヴィジュアル系の考察記事を参考にしてもらうことにして、とにかく、少年少女たちにとってつまらない日常を救い出してくれるヴィジュアル系バンドの人たちは、彼らにとって「ヒーロー」であったのだ。
ブームが過ぎ去った要因
思えば、髪をいろんな色に染め上げ、コスプレのような衣装を纏い、黒いブーツを履き、自傷的な歌を絶叫するヴィジュアル系バンドマンの姿って、まるでアニメに出てくる登場人物やヒーローそのものではないか。
この二度のブームの中、多分、当時の少年少女たちはヒーローたちに熱を浮かされていたのだろう。この熱を持った状態こそがブームの正体だったのだ。しかし時代は過ぎブームは終わった。熱に浮かされていた少年少女たちもやがて大人に近づいていき、自分たちのヒーローを捨てていく。かつては特撮やアニメが好きだった子どもと同じである。子どもたちも成長とともに嗜好が変わっていく。
少年少女たちがなぜ、ヒーローを捨てていくことになったかという理由の一つは、多くのヴィジュアル系バンドが「自傷」というキーワードを元に「大人」を仮想敵にしすぎたということではないだろうか?思春期にとってピアスを開ける、体に毒を入れる喫煙や髪を染め上げ毛先を痛めつける、リストカットなどの「自傷行為」というのは言ってみれば別に逮捕されるわけではないけど、学校の校則上では違反という、大人に対する反抗である。
このような小さな大人へのアンチがあるからこそつまらない日常を救い出してくれていたのだ。しかし大人になってしまえばそんな自傷行為というものは失笑されても文句を言えないという形に変わる。今度は自分たちが反抗される側になってしまうのである。だからヴィジュアル系バンドというものは思春期の成長とともに消えていく幻想のようなものだったのではないだろうか?
ヴィジュアル系は死んだのか?
そして今の邦楽バンド界隈を見回してみても、トップチャートに入ってくるようなヴィジュアル系バンドはもうかつてのヴィジュアルを脱ぎ捨てたカジュアルなバンドの形に変わったり、もはやヴィジュアル系だったことかなかったことにするようなバンドもいる。やはりもうヴィジュアル系は死んでしまったのか?
いやまってほしい。もうブームが去ってしまったけど、今、アングラなセカイではテクニカル系ヴィジュアル系バンドが熱いことをご存知だろうか?どうしてテクニカル系ヴィジュアル系バンドが多発しているかというと、まぁ元々メタル系のバンドをやっていたけど、ヴィジュアル系という音楽がラウド寄りになったので、メタル系の人たちの中にも抵抗が昔に比べたらなくなってきた。だったら俺らもヴィジュアル系になろうぜということでメタル畑から転生してきた人たちが増えてきたという背景がある。
「まったく近頃の若いものは…」という言葉は人類が知恵がついた時点で老人が若者に対して言っていた言葉らしいが、それにしてもまったく近頃のヴィジュアル系バンドはうますぎる。そんじょそこらのバンドマンが耳コピをめんどくさがるほどにうまい。
ヴィジュアル系の強み
ヴィジュアル系バンドの最大の強みは何かと考えたら、それは音楽性の吸収力だと思う。例えば、XJapanはスラッシュメタルもあればハードコアパンクにクラシックのようなバラードな音楽もあった。00年代中盤のネオ・ヴィジュアル系時代はニューメタルの要素を取り入れたり、歌謡曲を取り入れたりとヴィジュアル系バンドの音楽性は多種多様だ。
今のヴィジュアル系バンドで考えるとSUICIDE SILENCEのMitch Luckerの歌い方、デスコアやブルデス、プログレメタルそしてジェントなんて恐ろしいぐらいにテクニカルな音楽性を吸収していっている。もう音楽界の暗黒武術会といってもいいぐらいにテクニックはインフレを起こしている。平気でめっちゃすごいブレイクダウンとかはさんでくるし、いやー、ジェント、デスコア世代恐ろしい。
それではいくつか最近のヴィジュアル系バンドを紹介しておこう。
NOCTURNAL BLOODLUST – Malice against
テクニカル型ヴィジュアル系界のインフレ化の震源地といってもいいバンド。明らかにNOCTURNAL BLOODLUST登場で以前と以降ができてしまった。このバンドが持ってきたデスコアサウンドとテクニカルな部分はもうヴィジュアル系界では災害レベルといってもいいだろうと思う。あとボーカルの筋肉もすげー。
JILUKA – M.A.D
ブレイクダウンエグすぎ。さらっとギターがめっちゃエグいスイープフレーズ入れてくるし、リズムの構成も覚えるのが嫌になるぐらいエグい。こういうバンドはラウド、エクストリーム、テクニカル系のバンド全てをとってみてもそうそういない。新手の新ジャンルのバンドと捉えた方が良さそう。それにしてもそれぞれのテクニックがエグい。
DEVILOOF – 開花
V系要素一切なし。少し前にV系要素のある音源を発表していたDEVILOOFなんだけど今作はそれらを薙ぎ払って、ほぼほぼブルデスである。結構、デスメタル系のイベントにも出演しているし。ちなみに歌詞は日本語なんですね。これも割と新鮮である。
DEXCORE – NEW ERA
デスコアにジェント、ブルデスときて今度はメタルコアである。クリーンパートは色々言われているけど個人的にはこれでいいと思う。それよりも英語の発音が気になる。ブレイクダウンの落とし方半端なくかっこいい。
DIMLIM – vanitas
しっかりと王道のヴィジュアル系の雰囲気を残しながら、animel as leader系ジェントを吸収したスタイルはうまく融合していてすごくかっこいい。エクストリーム寄りになり過ぎたテクニカル型ヴィジュアル系バンド界の新しい震源地になる存在になることを期待しているバンドである。ホイッスルボイススゴ過ぎ。
終わりに
ブームが過ぎ去ったヴィジュアル系界はNOCTURNAL BLOODLUSTの登場以降、みんな楽器隊のレベルが高いのはもちろんなんだけど、ボーカルスタイルのレベルが地平線の彼方へといってしまっている。到底マネなんかはできない。最近のバンドはすごいね。
最後に、今の少年少女たちのヒーローってなんなんだろうか?今のテクニカル型ヴィジュアル系界にヒーローっているのだろうか?ていうか今の音楽界全般にヒーローっているのだろうか?もう暗中模索だった思春期から遠のいた筆者にはもうそういうことはわからない。だけどまぁ、何れにせよ面白ければそれでいいんですよ。ということで今回は以上です。
それではまた次回。