第1回もう一度まなぶ日本近代史特別編~近藤勇ってどんな人?~
幕末が一段落ということで、今回から数回にわたって、新撰組のことを学んでいくことにしましょう。はっきり言って、試験にはまったく問われない内容なので、覚える必要は皆無です。
新撰組に関する資料は乏しく、あくまでも「そういう説がある」という範疇から抜け出せません。皆さんが知っている新撰組の知識というものは、後年になって、子母澤寛によって書かれた小説『新選組始末記』が発祥と言っても過言ではありません。これは単なる創作ではなく、実録モノになるわけなのですが、すべて史実に基づいているとは言えません。
そういう意味で、教科書に載せにくいし、試験では出題しにくいということもあるのでしょう。今回から始める特別編も、「そういう説がある」程度でご覧いただいた方が良いでしょう。
農民なのになぜ剣術を?
新撰組を語る上で、最も重要な人物となるのが、局長の近藤勇です。まず最初に近藤勇がどんな人物であったかを見ていくことにしましょう。
後に京都で凄腕剣客集団として、その名を轟かせる新撰組ですが、近藤勇は、武士出身ではありませんでした。近藤は、現在の東京都多摩地区の農家で誕生しました。豪農というほどではありませんでしたが、中の上ぐらいの比較的裕福な家だったそうです。
それでは、農民だった近藤がなぜ剣術の達人とまでなったのかという疑問が生じると思います。当時、アヘン戦争などで日本国内にも外国の脅威が広まっていました。いざとなったら「自分の身は自分で守らなければいけない」と考える人も多く、武士以外の人々の間でも、剣術などの武芸を身につけることが流行っていたのです。実は、農民がわざわざ武芸を学ぶということは、なんら不思議なことではなかったわけです。
名前の安定しない近藤勇
父親の影響で『三国志』や『水滸伝』が大好きで、武士に対する憧れが強かった近藤は、天然理心流という流派の剣術道場「試衛館」に入門します。実は、この試衛館というのは近藤の自宅です。父親が道場を作っちゃったのです。それでは、師匠は父親かというと、それは違います。天然理心流は、ちゃんと道場を構えていましたが、門弟を確保するために、江戸の郊外へ出稽古を行っていました。近藤の父親は、師範を自宅の道場に招いて、剣術を学ばせていたのです。
また、この天然理心流宗家は、世襲制ではありませんでした。門弟の中から特に優れた人物を養子として迎えるのです。近藤勇の師匠となる近藤周助も農民出身でありながら、養子入りして天然理心流を継いだのです。
試衛館に入門した近藤勇は、めきめきと上達し、近藤周助に気に入られ、周助の実家である島崎家に養子入りすることになります。近藤勇は、それまで宮川勝五郎という名でしたが、島崎家に養子入りしてからは、島崎勝太と名乗り、正式に天然理心流宗家を継ぐことが決まったときに、島崎勇と改名し、宗家を継いだときに近藤勇となりました。名前がコロコロ変わりすぎて、併用していた時期もあったそうです。ちなみに、後にまた2回、名前を変えています。
勇と愉快な仲間たち
近藤が宗家を継ぎ、「浪士組」として上洛するまでの間に、新撰組の名だたるメンバーが近藤の元に集結していました。同門の土方歳三、沖田総司、井上源三郎、他流派では、山南敬助、永倉新八、原田左之助、藤堂平助です。斎藤一とも交流があったようですが、上洛の際には同行しておらず、京都で合流しているため、正直よくわかりません。
同門だけでなく、他流派の客人からも慕われていたのは、近藤の剣の腕前だけでなく、その人柄の良さが伺えます。実戦的な天然理心流は、型の美しさを重視する有名他流派に「田舎剣法」とバカにされている節があったので、お互いに大らかなところがあったのでしょう。
近藤以外のメンバーに関しては、追々紹介していこうと思うのですが、最後によく誤解されがちな井上源三郎について、少し触れておきます。司馬遼太郎作品の影響で、近藤たちよりかなり年長の「おじさんキャラ」で、剣術の腕はからっきしというようなイメージを持たれている方も多いと思います。しかし、実際は年長ではありますが、近藤と5つしか変わりませんし、免許皆伝を受けているので剣の腕もあったのです。頑固なところもありながら、よき相談役だったことや免許皆伝を受けるまで時間がかかったことなどから、創作として、そのようなキャラづけになったのではないでしょうか。
自称・津藩主藤堂家の落胤(父から認知されなかった子)の藤堂平助。
写真は残っていませんが、イケメンだったそうです。
近藤勇からよく素行不良を注意されていたり、われ先にといつも先陣を切ったことから「魁先生」と呼ばれるなど、おバカキャラっぽいですが、学問にも明るい文武両道タイプです。
彼が自称する藤堂家は、築城の名人というか寝返って勝ち馬に乗る名人藤堂高虎の血筋です。
後に新撰組と袂を分かつことになるわけですが・・・
次回は、近藤さんたちが京都へ向かいます。彼らを悩ますことになる、ちょっと変わった名をしたあの方の登場です。