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クリエイティブ業界へ行こうとしている人を全力で引き止めたい

文:田渕竜也

「なにかクリエイティブな仕事がしたい」「夢はアートディレクター」「クリエイティブな人になりたい」。こんな御託、耳にタコができるほど聞いてきた。まぁ言いたいことを要すると「つまらない仕事はしたくない。特別な人間としてクリエイティブな人になりたい」ということだろうか。まぁそれはそれでいいじゃないか、若さツッパ抜ける自分がまだ青くて何も知らない感じ。そういうクリエイティブなことに憧れを持つ若い感じって僕は嫌いじゃない。だけど先に結論を言っちゃうとクリエイティブな仕事なんてクソだ。ここでいうクリエイティブな業界は広告業界なんだけどこの業界に入ることは僕個人のおせっかいな感覚から言うと絶対的にお勧めしない。ていうかこんな船出一発目からタイタニックの終盤みたいな業界を勧めるなんて僕には到底出来ない。今回はクリエイティブ業界に入ってタイタニックが沈没して沈んでいくデカプリオみたいにならないようにみなさまを全力で引き止めようと思います。

それではなぜクリエイティブ業界へ進むことを勧めない理由としては先ず、「動機が完全にズレている」ことだ。たとえで言えばケーキが好きな人がいるとしてそのケーキが好きな人がヤマザキパン工場で働くか?ということだ。ケーキを食うことが好きな人が工場で永遠とスポンジにホイップをつけたり、イチゴをのせることが好きな訳じゃないじゃないですか。ケーキが好きっていう人はあくまで「ケーキを食べること」が好きなわけで、つまり「好き」と「行動」が完全にズレているんだよね。
クリエイティブ業界においても同じことだ。絵を描くこと、おしゃれなファッション雑誌を読むことが好きな人やなんとなく意識が高いだけの人がパソコンを使って写真並べたり、文字を打ったり、広告の予算の見積もりをすることが「好き」ということなのか?ということである。
僕の周りでも絵を描くことが好きな人が広告業界に入って、結果、その業界と自分のやりたいことがズレすぎて、精神的病に陥って退職した人を何人か知っている。

それから「クリエイティブ」とか「グラフィックデザイン」「アートディレクション」と聞くと一見テラスハウスに登場しそうな職種っぽくて意識高そうなイメージを世間は持ちがちだけど、実際はそうじゃない。
この業界に進もうとしている奴らって揃いも揃ってドラクエの村民みたいに「誰もやっていないことをやりたい」とか「見たことないものを企画したい」とか言って同じことを話すけど、大体そういうやつらがこの業界に入ると失敗する。
なぜか説明すると本来、広告業界は「人を呼び込んでなんぼ」っていう「どうやって人を呼び込むか」を考えることが大きな目的だ。そしてその目的を遂行するため企画、ディレクションって感じで「結果」に繋がっていくんだけど。あいつらって「なにか面白いことがしたい」という「結果」から入っているから実態がないんだよね。よく考えほしい。SEXをやりたいだけのクソカップルってうまくいくはずがないじゃないですか?それって先ず「結果」から入ってしまってるから付き合うことの中身がないからなんだよね。この「誰もやってない」や「見たことがない」っていうのはそれと同じってなわけです。

あとこの業界ってくそみそに給料安い、その上、大した福利厚生もない。三十代になっても手取り22万で実家暮らしなんてザラの世界だ。それから夜中の12時に連絡しても元気よく返事を返してくれる。ブラック気質なので、乱れた生活からくる自律神経の乱れはまるでパンチによるダメージを蓄積したボクサーの如く体はボロボロになっていく。そんなわけで普通に結婚して家族が出来てなんてものはかなりハードルが高い。クレヨンしんちゃんみたいな家族は夢の先のさらに夢の話だ。だから離職率が半端ない。本当に半端ないって。大体、二人に一人は半年以内に「退職のお知らせ」っていう形でメールが届く。せっかくの新卒のカードをこんな業界に使うのは勿体無い。

市場の話をすると2018年の広告業界の市場規模は約6兆円だ。ここ数年、市場規模は横ばいである。だけどもう少し細かく見ていくとインターネット広告のみが伸びていて、そのほかメディア広告は軒並み下がっている。恐らくもう五年以内にインターネット広告がメディア広告を抜くだろうと言われている。そんで企業別でいえば広告業界の市場はおよそ半数が電通、博報堂が占めていて、多分、これから大手二大企業のみが強くなっていく将来の姿が容易に想像がつくと思う。しかもこの二大企業が過労死者が何人も出してる上、パワハラやセクハラの問題が噴出している時点でよほど鈍感な人じゃない限りこの業界のヤバさは想像がつくだろうと思う。じゃあこの二大企業以外の会社は?って考えるともっとゾッとする世界が待ち受けている。壁に一礼する会社、円陣を組んで大声で声出しをする会社、犯罪スレスレといかほぼブラックゾーン分野の広告を取ってくる会社、一日に何百件もやるテレアポ営業をする会社、朝のニュースで同業種の人が逮捕されているなんてことがクリエイティブ業界の中小、零細企業にはザラにある。

ここまで聞いてもなおもクリエイティブ業界に夢を見ますか?よろしい、じゃあ完全に玉砕するまで語ってみようかと思います。

もう少し身近な話をすると手元のスマホでツイッターのトレンドを見てほしい。ハッシュタグの後にくるワードにどれだけ興味を持ちましたか?何か呟きたくなるトレンドはありましたか?大抵の人は一つも興味ないか一つ二つぐらいだろう。じゃあ例えばこのトレンドに関して毎日呟かなければならない状況を想像してほしい。
つまりクリエイティブ業界で働くってことは興味のないものを相手にしないといけない、その上、飽きても毎日この興味のないことを続けなければならないっていうことを言いたかったのだ。
あなたにパチンコの「激アツ」という見出しのポスターを永遠と作り続けられますか?もしくは永遠と工場の部品のイラストを描いて笑顔で入られますか?自分が気合入れて企画したものを全否定された上作り直すことができますか?割り切れる奴らならなんとかなるが、志の高い奴らは結構この辺りでぶっ壊れる。ようこそメンヘラちゃんの世界へ。

ここまでずっと否定的なことばかり書いてきたから、逆に肯定的な話でもしてみようかと思います。

こんだけ全力でクリエイティブ業界へ進むことを止めてもそれでもこの業界で生きて行きたいって人はまだいるんじゃないかな。
そういう人は先ずどっかの会社でバイトもしくは期間限定の派遣で働いてみることをお勧めする。
どんだけ僕の主観だけでこの業界のことを文章で書いても結局は自分の目で見て確かめるのが一番。クリエイティブ業界のクソなところもいいところも体感できるし、向き不向きも体感できるだろう。自分のやりたいことももっと明瞭化するだろうしね。

ついでにクリエイティブ業界に入るなら「時間」の管理はしっかり身についてからにしておいたほうがいいよ。製作している間って時間が見えなくなりがちだから。じゃないとこの業界に入ってから仕事が終わらなくて家に帰れない日々が続くことになるぞ。

そんなわけで技術や高い意識云々よりもとにかくメンタルが強くて時間の管理ができるやつ、根気が強いやつならこの業界に入っても多分大丈夫だろう。是非、頑張ってほしい。

それでは。

田渕竜也のTwitter

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