/ 現代社会の闇

バイトテロを叩いても意味がない

文:なかむら ひろし

 アルバイト従業員が悪ふざけをした映像をSNS上にアップするという『バイトテロ』なんて言葉が生まれたのは何年前だっただろうか。その後、しばらく聞かなくなったが、最近になって、すき家やくら寿司、セブンイレブンなどでまた『バイトテロ』が相次いでいる。何があったか知らない方はここにあえて書く必要もないと思うので、各々検索してみて欲しい。

 バイトテロを起こされた企業の中には、そのアルバイトを解雇するだけでなく、刑事·民事も含めた法的措置を検討しているところもあるそう。信頼回復やバカなことをしたんだから、それなりの責任を負わせて、再発防止策にしようってことらしい。要は見せしめとして吊し上げようってことですな。この企業側の行動に賛成的な意見も多いみたいだけど、なんか違和感が残るんだよね。悪質なケースに関しては厳重な処分を課すこと自体に私も反対するわけではないんだけどね。

 まず、バイトテロを起こされた企業は純粋に被害者なのかって話。実際にこうして問題になったことで、企業の信用を損ねているわけだし、過去にはバイトテロによって閉店や倒産にまで追い込まれたところもあるのだから、被害を受けているのは確か。
 ただ、従業員への教育や監督を怠っていたこともまた事実なわけで。企業側にもちゃんと雇用責任があるんだよね。それを一従業員にだけ責任を押し付けるようなやり口ってどうなのよって。それも今回の企業側の行動に対する賛成意見、同情的な意見が相当数あることに現代社会の闇を感じざるを得ない。

 そんなことを言ったら、企業側の雇用責任が重すぎるんじゃないかという話になりそうだが、それは間違い。逆に軽く考えすぎているんだよね。
 バイトテロを起こされた企業ってどこも猫の手も借りたいほど人手が不足している業界。正規雇用契約ではないアルバイト契約となると、とりあえず誰でも良いやって感じで簡単に採用してるんじゃないかな?求人広告を出すのにもそれなりにお金がかかるわけだし。書類選考や入社試験、面接を複数回行って迎え入れた正社員だって問題を起こすこともあるわけだから、適当な形だけの面接で採用したアルバイトの方が問題を起こす確率が高くなるのは当然と言えば当然。幼児レベルの人間を雇ったんだったら、きちんとした教育·監督が必要になるのは当たり前だよね。

 次に再発防止策として機能するのかという部分にも疑問が残る。確かに「SNS上に不適切な動画をアップする」という意味では有効かもしれない。ただ、SNSで拡散されなければ、一般消費者にとって、それは存在しない事実となってしまう。でも、実際は床に落ちた食材をそのまま提供するなんてことはSNSができる前から確実に存在していたわけで。結局、地下に埋もれるだけなんだよね。企業が不利益を受けることは防げても、食の安全性という消費者側の観点では根本的な問題が解決するわけではないんじゃないかな。

 今回の件で、バイトテロに遭った企業はもちろん、同業者の間でも新しく様々な対策が講じられていることだと思う。アルバイトがスマートフォンを持ち込まないようにボディチェックを行ったり、監視カメラが設置されたり、なんてことまでは行われていないにしても、真面目なアルバイトにとっても程度の差はあれ従来より息苦しさを感じるような環境になっているのではないかと推測できる。アルバイトだって仕事なんだから協力するのは当たり前だと言ってしまえばそれまでだが、それが直接的な原因ではないにしてもそれまで不満を感じていた人が退職に踏み切るトリガーにはなり得るし、これからアルバイトをしようとしていた人が敬遠したり、親から「そんなところで働くな」と反対されることもあるかもしれない。
 ただ、もっと厳しいのが店舗責任者だろう。バイトテロを起こされた店舗の責任者はそれ相当の処分が課されていることだろう。指導·監督を怠っていたわけだから当然だよね。他の店舗責任者だって明日は我が身である。自分の身を守るためにもアルバイトへの監視を強化していかざるを得ない。ただ、よく考えてみて欲しい。店舗業務をアルバイト任せにしているのは、責任者の怠慢もあるかもしれないが、それよりも人手不足や業務過多、人件費削減によって起こった歪みだろう。今回の件で最も割りを食っているのは店舗責任者かもしれない。そう考えると、元々人手が不足している業界なのに、さらに人手不足が加速してしまうのではないだろうか。

 じゃあ、バイトテロを防ぐ方法として、待遇の改善が有効なのではないかという話はどうだろうか?実際にそのような意見もあるようだが、そんな単純な話でもなさそうなんだよね。
 ひとつの店舗に配置する正社員の数を増やしたり、賃金を上げたりするとなると、現状の経営状態ではやっていけない。アルバイトの数を減らしたり、商品の価格を上げるか質を下げるなどする必要が迫られる。アルバイトを減らすとアルバイトよりも給料が高い正社員で穴埋めしたり、アルバイト一人当たりの仕事量が激増する。商品の価格を上げたり、質を下げれば、客数が減って利益が取れなくなる。
 じゃあ、アルバイトの待遇を改善するとどうだろうか?確かに企業や店舗に対しての不満から腹いせ的にバイトテロを起こすというケースには効果が見込めるかもしれない。ただ、私の主観的意見になるが、バイトテロを起こす動機って、企業に対する不満ばかりではなく、もっと低次元なものじゃないかなと思うんだよね。それに待遇を改善したことで、募集してくる人数が増え、質の高いアルバイトを揃えることが出来るという考えも短絡的過ぎるような気がする。時給の高いアルバイトにバカは応募しないわけなんてないし、アルバイトの数を増やせば、バカを引く確率も上がる。だから、待遇を改善したところであんまり関係ないように思える。

 バイトテロというのは、企業が従業員を犠牲にし、人件費削減を追求してきた結果のように思える。もちろん、そういった店舗を喜んで利用してきた我々消費者にも責任がないわけではない。デフレやデフレによってもたらされた何でも安く済ませようとするマインドが払拭されない限り、明るみに出なくても、いろいろなところでこんなことが起こり続けると思う。質の高い、安全なサービスを受けるには、それなりの対価を支払う必要があるんじゃないかな。

なかむら ひろしのTwitter

ついったウィジェットエリア