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いうほどエモくねぇよ選手権

文:田渕竜也

“エモい”という言葉がある。

 

 セサミストリートの赤いやつではなく、“エモーショナル”を日本語の動詞によくある「○◯い」をくっつけた言葉である。その語源の如く、何か感情的、情緒的な気持ちにさせられた時に使う。

 鬼のように政治ツイートとリツートしてくるやつ、手首切ったことを見せびらかしてメンヘラ自慢してくるやつ、「うわー、今日で10連勤」と社畜アピールしてくるやつらに「エモいなー」と言ってやるのが多分、使用方法としては正解であると思う。乗り的には「ワンチャン」とか「アンパイ」みたいな大学に入って二回生ぐらいのやつらが使ってくる感じだね。

 もっとも、この「エモい」という言葉は僕の記憶を辿り寄せると人の行動や物事に対して言うのではなく、Story of the yearやMineral、Sunny Day Real Estateなど所謂エモロックと言われていた音楽を聞いて「エモいなー」って言っていたと記憶している。一昔前のオタたちがキャラを見て「モエー」って言うオタクと同じ感覚だと思う。

 だけどいつの頃からか音楽用語だった「エモい」が頭の追いつかない人たちがなんて形容したらいいのかわからないもの全般を「エモい」と指すようになってきている。

 この前、たまたま本屋で見かけた「エモい写真の取り方」なんて見出しの本があったけど全然エモくなかったよ。て言うか写真でエモいってなんだ?そりゃ、ノルマンディー上陸作戦とかスターリングラードみたいな写真集ならエモいかもしれないが載っている写真がまるでおしゃれなカフェの紹介記事みたいな写真なんて全然エモくねーよ。どちらかと言うと「チル」なほうだよ。

 と言うことで今回は巷ではエモいと言われているけど言うほどエモくないもので競い合ってもらおうと思います。

エモい選手入場!

インスタによくあがってくるストロング2缶目飲み始めたときの視界みたいな写真選手

 


 偏差値がFラン大学生ぐらいのインスタグラマーによくあるよねこう言う画像。インスタで画像を検索しているとだいたい7割ぐらいの画像がこんな感じでうんざりしてくる。

 まず第一には、ポエトリーな雰囲気でオシャレな風景画像で“またか”と思うようなものが非常に多いことだ。

 夕方の木漏れ日、道端に咲く花とどこかを見つめる投稿者、これがエモい画像らしい。こういう画像に対して「承認欲求がー」だとか「自己顕示欲がー」ってほざく恐らく隠キャであろう輩がいる。だけどマズローの欲求段階説でいえば人間ってみんな何かしら社会に認められたものなんだから目立ちたいのは誰でも一緒なんだよね。だから自分をさらけ出すことは別に僕はいいと思うんだ。

 だけどほとほとうんざりしまっているのは、その画像についてくるドスベリしているハッシュタグだ。「#今日は#都内で#濃いメンツの#女子会#みんな女子力高すぎ」みたいな沢山つけて面白いと思ってる奴ら。なんもエモくねーよ。ハッシュタグが寒すぎてこちら側はマイナス三十度の世界のアンビエント状態だよ。

 ていうわけで言うほどエモくねーよ選手権では大本命である。

 Just two of us進行をやたら使ってくるシティポップ系バンド選手

 

 青春時代をラウド寄りのバンドに首を突っ込んでいた僕にとっては、「エモ」とはやはりハードな音楽のことになる。

 もう三、四年前からYoutubeや音楽配信サイトでゼットンの炎の如く熱を帯びているシティポップ界隈。

 キラキラと輝くバンドが多いけど大概のバンドのコード進行は椎名林檎の『丸の内サディスティック』よろしくJust two of us進行を使っていて、このコード進行を使っとけばみんなオシャレなシティポップバンドになれると言っても過言ではない。そのぐらい頻繁に使われているので正直「またこのコード進行か、もうええって」ってなる。ついでにとりあえず東京の大都会を綺麗なねーちゃんを歩かしておしゃれみたいなPVにも飽きた。

 ところで手元のスマホで「エモい バンド」とTwitterで検索するとJimmy eat the worldとかエモハードコア勢よりもLUCKY TAPESやD.A.N.など都会的アーバンなシティポップバンドを取り上げたツイートが上がってくる。彼らの新譜を出す度に「邦楽ロックは酸素」みたいなことをぬかす音楽玄人たちが「Yogee New Wavesの新譜エモい」とかツイートしてるけど一体何がエモいのだろうか?

 いやいやなんもエモくねーよ。聞きやすくてホッとするよ。この音楽玄人たちは一体、シティポップの何にエモさを感じ取ったのだろうか?

 もし今シティポップ系のバンドに「エモい」以外の別な言葉で言うなら「オツだね」なんか結構合いそうだと思うんだけどね。

病みツイートポエム選手

 ガラケー時代、待受画面が世のメンヘラや「デートはドンキ」みたいなカップルにとってはある種の精神安定剤になっていた時期があった。

 ポエトリーな文章と画像。ディズニーキャラと「ずっと友達だよ」「絆だよ」みたいなポエムがレイアウトが汚い画像、326、カップルのイラストと「最初に好きになったのはプリントを渡すその手だったんだよ」ってストーカーを彷彿とさせる恋愛ポエムなどなど種類は多岐にわたる。

 多分、この痛いガラケー待受ムーブメントは今で言ったら「エモい」と言われていただろうと思う。

 今は時代が変わってポエムの世界はケータイの待受という個人の世界からSNSと広がった世界になった。

 ツイート、それは時としてツイートしてメンヘラ達の精神安定剤にもなる。言葉にして吐き出すとスッキリするのはストレスの自浄作用として確かにいいと証明されている。そしてさらに周りが反応してあげるとさらに安定性が増す。

 「何度も何度も同じところを切るから傷跡は真っ赤に腫れる」ってヴィジュアル系バンドの歌詞かよ。

 「エモい」というより「グロい」だね。これならまだガラケー時代の脳の偏差値がお猿さんレベルのズッ友画像の方がまだマシだったような気がする。

 

自撮り、アイドルの画像をツイートに載せて「エモい」と一言だけ言って消える選手

 あれってなんの目的でやってるんでしょうね。自分が崇めるアイドルを布教するためにしても説明不足すぎる。
 
 皆さんはアイドルのライブを見たことがあるだろうか?あれのすごいところはステージ上のアイドルより会場のオタ達の熱気が目立っていてファンがライブを作っていくエンタメになっていることだ。

 まぁそこまではいいんだけど、ライブが終わるとチェキ大会という恐ろしいことが始まる。チェキ代は500から1000円ぐらいでそのチェキ大会の列にオタクのおっさんたちは何度も並び続けるのだ。まだUSJのスパイダーマンなら楽しいから何回でも乗れるけどチェキである。アイドルグループが三人としたら三回ターンしなければならない。

 金の札が円広志のように飛んで飛んで飛んでいく。オタたちが必死になって稼いだ金はこうやって消えていくのだ。いや、これだけならまだいい。

 最近のアイドルグループには友達紹介特典というものがあって三人ライブに連れてきたらライブ映像一曲プレゼントや五人連れてくると楽屋で10分トークができるや10人連れてくるとオフ会参加券ゲットというマルチ商法のような、いや、これはマルチだ。マルチの集会だ。

 そんなアイドルの何がエモいだ。エモくねーよ。商売としてはエグいよ。

終わり
 ここまで見ていったけど「エモい」って結局なんなんでしょう?最近ではなんかいろんな社会学者の人たちが小難しいことを言っているそうですが、まぁ僕の個人的な見解としてはオタの人たちが『あずまんが大王』を見て「モエー」と同じだ。激しいボーカルとギターサウンドが絡み合って音楽のボルテージが上がる様を「エモい」と表現していたと思う。どちらも音楽オタクとアニメ・漫画オタクの世界から出てきた言葉だ。

 だけど「モエー」も大衆に受け入れられてからドンドンと衰退していき今では死語となった。じゃあ「エモい」は?といえばもうそろそろ死語になろうとしている。もうハードコア界隈ではこの言葉を使っている人ってほぼほぼ見ないもんね。

 みなさまはどの「エモい」一番エモくねーよと思いましたか?僕はもうこの言葉自体がエモくねーよと感じています。

 じゃあ次に流行る言葉ってなんだろう?流行の流れに乗る、乗せられるってことで「咲くってる」とかどうでしょう?流行らんか。

それでは

田渕竜也のTwitter

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