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労働者は労働力を売っているということを自覚した方が良い

文:なかむら ひろし

 私が学生時代に初めてアルバイトをしたときに言われた言葉。その言葉をアルバイトだろうが、正社員だろうがどの仕事に就いても今もなお言われ続けている。それは「給料はお客様からいただいている」というものだ。

 確かに客がモノやサービスを購入することで、企業は利益を得て存続している。企業が存続できなければ、労働者を雇い、給料を支払い続けることはできないわけだから正しいと言える。ただ、企業の売上が伸びず、利益が出なかった場合、労働者に給料を払わなくても良いって話にはならないので、ある意味では間違っているとも言える。

 雇用契約というのは、労働者は企業に労働力を売り、企業は労働者から労働力を買うという契約だ。だから、形式的には「給料は企業から貰っている」という方が正しい。じゃあ、労働力って何って話だけど、それは労働によって企業が得られる成果と言えるかな。たまに勘違いする人がいるけど、労働者は労働力を売っているわけで、時間を売っているわけではない。

 まあ労働力を売るためには労働をする必要があるので、拘束時間が生じるのは当たり前だし、時給制のアルバイトなんかは仕事の量や結果ではなく、何時間働いたかで貰える給料は変わるから、勘違いする人が出てきてもおかしくはないかもしれない。もし、あなたがアルバイトを雇う身だったとして、時間中ボーッと突っ立ってるだけの人間をそのまま雇い続けるのかって話なんだよね。

 労働者は労働力という商品を売っていると言ったけど、商品の価格って基本的に市場原理が働いて決まるんだよね。売り手が好き勝手に決めることはできない。厳密に言うとできないわけじゃないんだけど、我々『てんぷら』のステッカーを1枚1万円で販売したところで買う人なんていないよね。ステッカーの価格に相場があるように労働力にも相場がある。そして、誰にも買ってもらえないモノやサービスは商品としての価値は皆無、もはや商品ですらないわけで。それは労働力も同じなんだよね。いくら自分は月給50万円以上の価値があると思っていても、その条件で雇う企業がないと、それは無価値で労働力ですらない。

 労働力という商品は売買契約が成立したら、それで終わりというものではない。実際に労働を行ってからでないと、その価値がわからない特殊な商品だ。仕事を覚えてもらうまでは教育にコストがかかるし、いつ辞められるかもわからない。先物取引みたいなもんだよね。大企業だろうが、中小零細企業だろうが、有名大学を出ていようが、Fラン大学を出ていようが、新卒の初任給にそれほど差がなかったりするのは、そういうことなんだよね。

 じゃあ、どうやったら給料を多く貰うことができるのかというと、実際に労働を行って、己の労働力という商品の価値を認めてもらうしかない。毎月20万円の利益しか上げられない人が「月20万円なんて安い、30万円よこせ」とか言っても、企業は受け入れてくれるわけないよね。そんな給料を支払っていたら、企業は潰れてしまうんだから。極端な話、毎月1億円の利益を上げる人にだったら、給料を100万、200万上げても残って欲しいと思うよね。企業から辞められた方が損をすると思われる人にならないといけないわけ。

 皆さんだったら、給料を多くもらうためには何をするだろうか?意識の高い人たちは本を読んだり、セミナーに通ったりするかもしれない。ジムに通ったり、服やアクセサリーを買ったりして、容姿を磨くかもしれない。それぞれ自己投資を行うと思うんだけど、それって必ずしもペイできるとは限らない。あくまでも投資なんだよね。例えば、毎月1万円分の本を買って、勉強し続けたとしよう。それでも毎年月給が1万円以上あがるとは限らない。自分の労働力という商品を評価するのは他者だから仕方ないよね。

 それだけお金を稼ぐのって大変なことなんだよね。稼ぎたかったら、常にペイできるかどうかもわからない自己投資を続けるしかない。それが嫌なら稼げなくても仕方ないと諦めよう。どっちも嫌ならどうぞ起業でもして好きなだけ稼いでくれ。

 ぶっちゃけ世の中には薄給と呼ばれる職業があって、それにはそれなりの理由がある。例えば、保育士なんかは薄給と言われてるよね。何故かと言うと、敷地面積や保育士の数で預かることができる子供の数が決まっているから、売り上げを取りにくいんだよね。

 保育士ひとりが月3万円で10人の子供を預かった場合、30万円の売り上げにしかならないわけ。だからと言って、月額を上げれば良いかと言ったら、そうでもない。月10万円出してまで、子供を預けないんだよね。それこそ、「保育園料高すぎ、日本死ね」って言われてしまう。この場合、国や自治体による補助を強化したり、保育園料が高くても預けたくなるような付加価値を生み出したりしないと、どうにもならない。

 こういった問題を解決できるような人はやっぱり稼げるよね。

なかむら ひろしのTwitter

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