妖人奇人館なバンド・cali≠gari
あなたのまわりには「奇人」っているだろうか?
この場合「私ってヘンなところがあるから」なんか自分から言ってしまうような奴は頭の中から消してくれ。こういう人は自分で「私、サバサバしてるから」って言ってしまう輩とそうたいしてかわりない。むしろ同人種だ。その「ヘン」というのはただただ性格が悪いってだけの話である。
それから日常的にウサギのぬいぐるみをカバンにしているような「変人」と口にはしないけど、そういったそぶりを繰り出す人たちも同様に頭の中から消してもらいたい。
思うに「奇人」の条件その一として「自分は普通だと言って自身の異常性に全く自覚がない」ことだと思うんですよ。
赤の他人にはとても理解しがたい趣味・動き・願望。「奇人」であるためにはそういったものぐらい持っていないといけない。それに自分がマイノリティーな趣味や願望であることに気づいていないもしくは隠していることが味噌だ。だけど隠していてもメルトダウン状態で隠せてない人もいる。
「奇」をてらっているものが漏洩することは恥ずかしいことだ。例えば「大村崑のオロナミンCの看板を集める」「日本人インド化計画」「救済魔人」。こんなこと周りの人に漏洩したくないと思う。だけどこの漏洩を自ら発信するようになったら「奇人」ではないくただの自己顕示欲の強い人だ。
こんな具合にワケわからないことを実践している「奇人」があなたの周りにいれば、多少めんどくさいこともあるだろうけどしょうもない変化なき日常に少しは面白みが出てくるのではないだろうか?だから僕は「奇人」と呼ばれる人たちに対してリスペクトの気持ちがある。「奇人」がいるから街中が面白い。それはマック赤坂然り。街中で突然エンカウントしてしまうツインテールのババァやセーラー服のジジィはまぁなんだ多分自覚がないから「奇人」としておこう。
メンバーはバンド創設から現在の第8期までよく変わる。そこで今回、取り上げるのはcali≠gariの奇人的なパブリックイメージを作り上げた第5期から第6期のcali≠gariを中心に取り上げたいと思います。というよりも僕はこの頃のcali≠gariが大好きなのである。もちろん今でも好きなバンドなのですけどね。多分、僕が道を踏み間違えたのはこのバンドを知ったからだと思う。
先に言っておくとこのバンドのメンバーは揃いも揃って奇人だらけだ。まずギターがゲイでボーカルはマジの精神病、ベースは早稲田大学の大学院までいってアルコールランプが燃えるさまを見てロックのハートに火がつき大学院を中退したという奇人。皆、正真正銘の奇人である。まともなのはドラムしかいない。そんな彼も最近脱退してしまいました。まさに妖人奇人たちの集団なのである。
歪んだ鏡
例えばギターの桜井青さんは、ゲイと言ってもマジモンのゲゲゲのゲイだ。それも野獣先輩の野の文字すらなかった頃のバンド活動初期からカミングアウトしている。今でこそLGBTやら男の娘やら何やらあるけどカミングアウトした時代はニューハーフブームの頃である。まだカルーセル麻紀やピーターの時代である。業界の大先輩である。
ちなみに女装をすると桜井青江というステージネームで登場する。マグロっていう曲のPVにも登場したりCD限定のラジオ演劇にも登場したりライブでは生着替えをしたりして楽しませてくれる。
彼(彼女?)の住まいが新宿二丁目ということもあり、ライブではその二丁目仲間たちだろうか?エロトピアって曲ではオナン・スペルマーメイドさんを始め、名だたるドラァグ・クイーンたちがステージに登場したり、いろんな楽曲にも参加したりしている。ただの女装して可愛い自分を自撮りして晒す奴らとは格が違う。この人は本気なのである。
嘔吐~サイレン
ボーカルの秀児は、当時、長髪に金髪や赤髪がスタンダードだったヴィジュアル系の時代にまさかの坊主で殴り込みにやってきた。当時、坊主のスタイルでヴィジュアル系は本当にビビった。絶対に堅気じゃない人に決まってんじゃん。なんかアー写では赤ちゃん人形を齧ってたりして電波キャラみたいな人なんだけど福祉手帳をしっかりと持っているマジモンの人である。歌い方はヴィジュアル系というよりは吐き出すようなパンクに近い。だからこの人はこの当時のヴィジュアル系バンド界では異色中の異色。僕の記憶の限り後にも先にも坊主でヴィジュアル系バンドをやっている人ってこの人以外見たことがない。というより周りが止めるよな。
弱虫毛虫
そんな彼はcali≠gariの5、6期のでんぱ組よりも電波を発していた奇人大サーカスな路線を決定付けていた人物だったんだけど、2000年に失踪という形で脱退した。理由はよくわかりません。
今はパンクバンドやっているみたいなんだけど、彼の魔法のiランドのブログにはcali≠gariへの未練が結構綴られている。っていうかまだ魔法のiランドってあるんですね。怖いですね。皆さんの魔法のiランドは黒魔術の黒歴史ランドになっていませんか?忘れた頃に昔の日記みたいなのが検索で引っかかると怖いモンですよ。
cali≠gariはベースがヤバイ。何がヤバイって多分、この時代のヴィジュアル系の中ではトップクラスのテクニックとフレーズのセンスを併せ持っていたベーシストなのだ。このリズムを支えるベースの村井研次郎は大槻ケンヂをはじめCoaltar of the deepersなどのベースを担当していて今ではめっちゃ売れっ子のベーシストだ。
この人のベースの凄さを語るならcali≠gariの武道館ライブでの桜井青さんの女装転換している五分以上をベースソロだけで間を持たせたことだろう。この武道館で五分以上もベースソロをやるってめっちゃ大変なことですからね。場末のライブハウスでソロをやるだけでも心臓が止まりそうなのに、アリーナ級ですからね。そもそもベースという楽器なんて地味だし何やっているかよくわからないと言われているような楽器だからね。だからこのベースソロで間を持たせるってのはすごいことなんですよ。
cali≠gari – Erotopia Backstage
だけどこの5、6期の頃の彼は本当に地味だったんですよ。見た目が。ジーパンにシャツというもうどこかの理系大学生のような服装で演奏したりしていたんだけど、近年ではデカイモヒカンヘアーになったりしてどんどんと見た目が派手になっていっている。君はこんな人じゃなかったじゃないか研次郎さん…。なぜかこの人が今現在、このバンドで一番ヴィジュアル系をやっている人になっている。
やっぱり変だ。変なやつしかいない。このバンドが活躍していたのは今から約19年も前だ。もう来年で20年前になってしまうんですよ。多分、こんな破天荒な奇人だらけのフリークスサーカス団は、令和になってももう現れることはないだろう。
何よりも「奇人」というものがカジュアルに発信できるようになった。簡単に自分のうちなるものをファッション感覚で漏洩させる。現在において、そういった「奇人」の格好をした絶望ごっこをすることでそれに惹かれた人たちと世の平和を自覚する。だから現在における奇人のスケールが小さくなるのは仕方ないことだと思う。
終わりに
澁澤龍彦に駄作なしとは僕の持論なんだけど昔、占い師や魔術、殺し屋といった、奇人たちのミステリアスな生涯について書いた澁澤龍彦の『妖人奇人館』を読んだことがある。殺し屋ダンディ、サン・ジェルマン、人肉嗜食魔、女装した外交官など、どれを読んでも超ド級の奇人たちが紹介されていく本があった。
その巻末に窃盗をすることで性的満足を獲得する人や放火をすることで性的満足を得られる人たちなどとても常人には理解しがたい性的解放が紹介されていた。
よく飲み会の席で「俺、まじどSなんだよね」って変態キャラを繰り出そうとする人いるけど、君は普通ですからね。そもそもサド・マゾで変態を区切れるレベルはまだこの澁澤龍彦の『妖人奇人館』には太刀打ちすらできない。まだまだ普通の人なのである。
そんな普通の人にはとりあえずcali≠gariでも聞いてもらいたいなぁと。今回は書いた次第です。
それでは