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マツケンサンバの松平健になりきれば無敵になれる説

文:田渕竜也

黄金の松平健を初めて見たのは今から約15年も前のことだった。

 その時の衝撃は今でも鮮明に覚えている。なんていたってあの松平健である。殿様ですよ。ドンキホーテに行くにもコンビニへ行くにも鎧や兜、裃袴を着用していきそうな変な生活感。気難しいというか融通性がなさそうな感じ。
 あの衝撃以前までは暴れん坊将軍をはじめ様々な時代劇に登場し世間には堅物な印象があったオッサンだった。そんな堅物なオッサンがいきなり黄金の着物を着てサンバを熱唱しはじめたのである。驚かないわけがない。同じ黄金でもフリーザの比では無い。アメリカで言ったらクリンスト・イーストウッドがいきなりSlipknotのマスクとつなぎを着て「マザファッカー」って歌い出すようなもの。こんなイーストウッドを想像できますか?僕にはミリオンダラーベイビーのやたらウェッティーな表情をするイーストウッドしかできません。
 どうですか?この例えならこの松平健の衝撃の度合いがわかっていただけるだろうか?こんな異常としか思えない場面が日本のお茶の間に流れたのである。
曲の名は「マツケンサンバⅡ」!まるで聖闘士星矢、まるでシュール、そしてサイケデリックにしてアシッド。
 世間の戸惑いをよそに黄金の松平健はまさに無敵状態だった。もはや酒の席で素っ裸になるやつと同じ状態だ。裸で何が悪いと同じである。なにせ裸になるやつってめっちゃストレス溜め込んでいるって話があるから、もし周りにそういう人がいる場合は「あっ、いろいろ大変なんだなぁ」ぐらいにして暖かく見守ってあげよう。
 この状態っていわばマリオがスターをとった状態なんですよ。多分、松平健ってものすごくこの時期、ストレスを抱えていたんだと思うんですよ。大地真央との離婚の話の直後にこれだから。もう無敵の人ですよ。しかもシラフでこの無敵状態ですよ。一歩間違えば通り魔犯ですよ。面白いというより狂気である。
 松平健の発散方法はこのヘンテコなサンバで吹っ切れるという形に行き着いた。なぜサンバ?なぜ黄金?なぜこんなにもアシッドなアートワーク?なぜ松平健が?などと多くの謎を残したまま彗星の如くブームはすぎて行った。

無敵の松平健

 歌を歌う人って曲を選んで、衣装を選ぶ。歌を歌う人がうな重の鰻とすれば曲、衣装、振り付けなどはあくまでも装飾であって山椒やネギのような薬味みたいなものだ。だけどこの黄金の松平健は違う。長すぎるイントロ、大勢の時代劇ダンサーズとなかなか現れない松平健、謎黄金の衣装、そして謎の振り付け。どれをとって見ても明らかにバランスがおかしいのである。うな重どころか具材マシマシの二郎系ラーメンだ。食い切れねぇ。無理無理。一つの舞台に情報量が多すぎるって。
あらゆる舞台の演出論も方法論も全てをなぎ倒す存在。いや、無にする存在。シヴァ神。それがマツケンサンバなのである。
 そんなマツケンサンバも世間は知らなかっただけで案外歴史があって1992年に初代マツケンサンバは生まれ、現在までにマツケンサンバⅣまで発表されている。知らない間に4作も出ているんですよ。知ってましたか?僕は知りませんでした。知ってどうするんだこの知識。これで少し賢くなりましたね。

 松平健がこのヘンテコなダンスで芸能人である故のストレスを黄金の松平健という形でストレスが解消できた。なら、もしかしたら僕たちも彼になりきれば不安な年金問題、子供部屋おじさん、8050問題、少子高齢化、老後二千万円問題などこの四方八方塞がれた現代社会。いやーなことが頭の中でメリーゴーランドみたいにグルグルと回転する。だけどひょっとしたらそんな塞がれた社会の胸の胸中もこれで解消できるかもしれない。
 そう僕らも黄金の松平健になりきれば無敵になれるんじゃないかと思うわけです。そして嫌な気分を救ってくれるのではないだろうか?

心の中のマツケンサンバ

 例えば会社で「覇気がない」と理不尽な理由で上司からメタクソに叱られたとしよう。「やる気なら出してますよ」って言い返したらまた「言い訳すんな」の応酬でラチがあかない。嫌ですよねこのタイプの押し問答。まるで猪木アリ状態だ。誰か「言い訳すんな」の答えを教えてください。あいつらちゃんと答えても「言い訳すんな」の連発だからな。ドラクエの村人Aかよ。
こんな言い合いする時間も無駄だし、ただでさえこの日本が銃社会だったら銃をぶっ放しているだろう人が何人もいる環境でこれ以上撃ちたくなる人も増やしたくないっての。
 だけどそれでもまた理不尽な回答を求められる。どうすりゃいいんだ。こんな人生を歩むために母は腹を痛めて子を産んだのですか?冗談じゃない。この地上に生まれ落ちたわたしは魔王となってこの世界を焼き払います。
 そんな時に黄金の松平健になりきるのだ。頭の中にあのサンバを流してみよう。どうだろうかあの長ったらしいイントロは聞こえてきただろうか?あのダンサーたちは現れただろうか?
 そうしているうちに「あれ?このバカ、黄金の松平健に何を言っているのかな?」「こっちはめっちゃバカでおかしなカッコしてんのに何をブチギレているのかな?」「オーレ!!」
 こんな風に自分は黄金の松平健と言い聞かせておけば心の収まりがよくなるかもしれない。

松平健 マツケンサンバⅡ

終わりに
 ここで考えるのはこういった「下げ」の気分の時に打ち勝てるのは結局、テンションを上げるしかないということだ。つねにテンションをあげて躁の状態にしておけば敵が馬鹿らしく見えてくる。あわよくばその上がりきったテンションで打ち負けさせることもできるかもしれない。
 そこで「マツケンサンバⅡ」である。狂ったビジュアルにサンバという間抜けな音楽。あのワクワクして高揚感のあるイントロ、そして黄金の松平健に振り付け。全てが奇妙で狂ったバランス感覚。というよりこの音源のベースの音めっちゃ良すぎないですか?ベースラインもかっこいいし、割とベースの音大きめのミックスするときのお手本になりそう。
 まとめるとこんなトリップソングを聞いてテンションが上がらないわけがない。まさに聞くアヘンである。この曲のPVを通して見るだけでも頭がどうかしてくる。何か変なサブリミナルでも入ってるんじゃないだろうか。そのぐらいこの曲のPVは狂ってる。
 だから黄金の松平健になりきってテンション上げきって無敵になって生きたまえ。狂って吹っ切れてしまえばこっちのものだ。そのあとのことは各々に任せる。

それでは。

田渕竜也のTwitter

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