他者を信用できない人は狗法眼様を思い出せ

文:なかむら ひろし

 たまに「人間は裏切るが、金は裏切らない」なんてことをまるでこの世の真理は何でも知ってますみたいな顔をして真面目に言う人がいるけど、あれ完全にスベってるよな。テレビでよく聞くような名言っぽいことをドヤ顔で言っちゃうような人は本当に説教臭くて苦手だ。「男は新規保存、女は上書き保存」とか何度聞かされたことか。

 それはどうでもいいとして、「人間は裏切るが、お金は裏切らない」とか言っちゃう人には一体何があったのだろうといつも考えてしまう。過去に辛い出来事があったのか。お金を使うことでしか他者から相手にされないのか。はたまた、ただの守銭奴なのか。

 そんな方は『狗法眼ガルフ様』を思い出して欲しい。なに?狗法眼様を知らない?そんなあなたは今すぐ『北斗の拳』を読もう。

狗法眼ガルフ

メディスンシティーをびわこワンワン王国にした御方。彼の街では人間の命よりも犬の命の方が重い。犬こそが法律。犬に危害を加えた者は、狗法眼様が最も愛するブルドッグのセキによって無罪か死刑か判定される。「のうセキよ。あの男、無罪か死刑か!?」アニメ版の中の人はシュワちゃんの吹き替えで有名なあの御方。

 「犬はいい。犬は忠実だ!決してウソはつかん。唯一信用できるわが友なのだ!!」とか言って、人々を苦しめる暴君なんだけど、「お金」が「犬」に置き換わっただけだよね。彼がこんなに歪んでしまった真意はわからないが、そのビジュアルが原因ではないかと私は推測する。禿げ上がった頭、魔女のように長く尖った鼻、異常に短い脚に太ったボディー···恐らく他者からからかわれたり、女にモテなかったり、いじめに遭ったりしたのだと思う。そして、人間不信に陥ってしまったのではないだろうか。

 そんな彼がひとつの街を統治するまでの実力者になったのは、彼に力があったからだ。信用できない人間など、暴力で捻じ伏せればいい。お金しか信用できない人も彼のような力を手に入れることができれば良いんだけど、さらに大きな力を持つ、胸に七つの傷を持つ男が現れれば、あなたの信用するお金も守ってはくれない。

 皆さんは他者に裏切られたという経験があるだろうか?私はある。だけど、よく考えたら、裏切られたというのは個人の主観だと思うんだよね。裏切られたと思っているのは自分だけで相手にはそんな感覚なんてないってことも多いんじゃないかなと思う。

 最も身近なのが親の期待。「良い大学に入って、一流企業に就職する」とか「家業を継ぐ」とか。子供が別の道を選択したとしても、それは親の期待を裏切ってやろうなんていうつもりはないわけで。

 他者は時に自分の意にそぐわない行動を取る。自由自在に他者を動かすことなんてできない。それを裏切りと感じるのは、あなたも他者も常に変化のない一定のものだと勘違いしているからなんだよね。

 例えば、大好きなアイドルに「一生応援します」なんて言ってる人が本当に一生応援するのかっていう話。ほとんどの人はファンを辞めると思う。いつまでもアイドルの追っかけをやってる場合じゃないとか、他にもっと好きなアイドルができたとか、理由は様々だと思う。アイドルの方だって、いつまでもアイドルとして活動していくわけではない。これは裏切りだろうか?双方共に常に一定ではなく、変化しているのだから当たり前だ。

 じゃあ、本当に「お金は裏切らない」のかって話だけど、確かに千円札を出したら、必ず千円分のモノやサービスを得ることができるという意味では裏切ることはないし、お金があれば、生きてはいけるよね。それにお金を持っているかどうかが、その人を信用できるかできないかの指標になってる部分もある。

 ただし、それは平時の話。狗法眼様の生きる時代のお金は「ケツをふく紙にもなりゃしねってのによぉ!」という世紀末。これは極端な話だが、お金の価値だって決して普遍的なものではない。インフレーションが進むとお金の価値は下がるし、デフレーションが進むとお金の価値は上がる。お金の価値だって変化していく。そして、そんなお金の価値を動かしているのは「人間」なんだよね。

 結局、人間は人間と関わって生きていくことになる。それが直接的であれ、間接的であれ。狗法眼様だって、人間の手下を従えてるし、街の人々から搾取してるんだよね。彼は暴力で街を支配するだけの力があったわけだけど、現代社会では現実的じゃない。やっぱり人間不信を克服する方が手っ取り早いと思う。簡単ではないだろうけど、狗法眼様を目指すよりは容易いはずだ。

 そもそも人間不信の人に統治者は向いてないんだよね。他者を信用できないんだから、何でも自分でやらないと気が済まないでしょう?何かを任せたとしても、ちゃんとやってるか隅々までチェックしないと気が済まないでしょう?本人も大変だろうけど、下についた人も本当に大変なんだよ。

 まず、他者に過度な期待を抱かないというところから始めると良いと思うよ。「こんなに勇気を出して告白したのに付き合ってくれないのはおかしい!」とか言って、ストーカーになっちゃう奴って完全にどうかしてるよね。ドレスや宝石、街までプレゼントしてもフラれる奴だっているんだよ。相手が自分の望む反応を示してくれたらラッキーぐらいがちょうど良い。

 次に相手から信用されるような行動をする。悪い言い方をすれば、利用価値のある人間になることだよね。少なくとも利用価値のある間は裏切らないから。重要なのは「お金以外で」っていうところかな。時にはお金を使うことも必要かもしれないけど、お金ばっかりだと、あなたではなく、お金を信用してることになっちゃうからね。逆にあなたも付き合う人間を信用ではなく、利用価値があるかどうかで決めれば良い。

 あとはどれだけ裏切る可能性が低い人間かどうかを見極める能力を養うことかな。完璧にこなせる人なんていないと思うけど、常に環境の変化に注目しておくことは重要。まぁ、とても難しいので、裏切られたって感じることも出てくると思う。その時は「まあいいや」と忘れてしまうのが一番。裏切った相手に執着するのは時間の無駄だし、余計な紛争が起きるだけ。狗法眼様みたいになってしまうぞ。

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