/ Column

ヴィジュアル系に猟奇性をぶち込んだMerry go round

文:田渕竜也


 いつの頃からかヴィジュアル系に猟奇性という性質が入ってきた。ヴィジュアルという華やかなイメージとは正反対に思える性質。ここでもし仮にヴィジュアル系初期イメージがYoshikiであるとしよう。彼のキーワードは破滅と美しさ。この仮説で考えるならヴィジュアル系ってやつはCali=galiのような病性、Sophiaのようなポップ性、Malice mizerのような耽美性そして猟奇性の四つのタイプに派生していったのではないかと思う。Xに自殺に関する曲があったと思うけど自死なんで猟奇的ではない。Yoshikiの美的哲学にある破滅と美しさの一種だと僕個人としては思っている。

そんなわけでヴィジュアル系の猟奇性という性質は今でこそスタンダードなイメージの一つになっている。

 一時期、こういった要素がヴィジュアル系界で強い時期があったんですけど、あれはなんだったんでしょうかね?殺人や死体損壊、性的錯綜などまるで世界観が園子温。『冷たい熱帯魚』みたいなあの類。
 その影響は多分、酒鬼薔薇聖斗事件、キレる17歳以降、それがさらに著しくなったんだろうと思う。
 だからそういった事件を目の当たりにした中二病キッズたちがネオヴィジュアル系バンドマンとなって一時期、猟奇的なバンドがわんさか湧いてでてきて、グロさのチキンレース状態になった時代もあった。実際に首切り映像をライブで流すバンドまで現れたぐらいだし。
 今ではこの傾向はヤンデレとかメンヘラなど陳腐なワードの並ぶヘルスビッチたちの世界観に取って代わられている。

 90年代後半、未曾有の大不況、大震災、サリンテロ…。多分、あの頃はどうかしてたんですよ。この国は。テレビでは堂本剛版金田一少年シリーズは多くのキッズたちを猟奇的な犯行でトラウマを残したし、僕なんかは未だに雪夜叉のナタを頭にぶっさすシーンが夢に出てくるぐらいトラウマになっている。サイコメトラーEIJIにしてもケイゾクにしても普通に殺人や流血シーンを流していた。そんなもんを普通にゴールデンタイムのテレビで娯楽としてやっていた。
 いまだったらコンプラの問題で無理。猟奇演出なんて無理。今のドラマなんて血を流している作品ってほとんど見ないような気がする。

 それにしてもなぜ猟奇性って人を魅了するものがあるのだろうか?普通、嫌悪感を抱くべき性質じゃないですか。だけどなぜか中学2年ぐらいになると「初カキコども・・・」みたいにグロテスクなものに興味を惹かれるようになったり、教室の片隅でガンツなんかを読んだりしてグロ耐久アピールなんかをしたりする。
 なんとなくだけど14歳ってそういう時期なんだろうなって思う。特別な人間になりたいみたいなあの変な感じ。自分がゾルディック家の一人とも言いたいようなあれ。まぁそうした一連の行為がのちに黒歴史となって頭を抱えることになるんだろうけれども。
 ちなみに補足をしておくと猟奇的なものに惹かれるって別に変人でもサイコパスみたいな特別な人じゃなく「ただの普通の人」みたいですよ。
 例えば交通事故、殺人事件、災害のニュースってながれると目が離せないじゃないですか?感覚として不愉快で「嫌だなー」とか憐れみを思う反面、心のどこかに「自分は被害者じゃないから」って少し安心する感じ。
 要はどんな悲惨な事件が起きたとしても情報ってやつは娯楽なんですよ。なんだか嫌な感情なんだけど結局、猟奇性に惹きつけられるのってそれと同じでごく自然的なことなんですよ。

 そんな猟奇的性質を持つオリジナルなバンドを探るとどうしても行き当たるバンドがいる。猟奇的性というアングラな性質を押し出してヴィジュアル系界にギャラドスのごとく破壊光線をぶっ放したバンド。Merry go roundである。

 1991年にボーカルである真(カズマ)を中心として結成。一旦解散して1995年にもう一度活動を再開させている。メンバーはかなり流動的なので細かいメンバーの紹介はやめておこう。ギターのHidenoは再結成した1995年に加入してそれ以後、解散する2004年までMerry go roundのサウンドを支え現在は引退している。
 今聴いてもこの人らを超える不気味さを押し出したヴィジュアル系の人らって見たことない。音楽性もどこからどの角度からみてもダークかつダウナー、そして退廃的。ある意味で。のちの00年代に台頭するネオヴィジュアル系の一つの完成型ともいうべきバンド。


 ていうかアー写なんてみてくださいよ全員サイレントヒルの住人ですよ。怖いよ。こんなん夜道に出くわしたらちびるより恐怖で髪抜け落ちてハゲる。ヴィジュアル系バンドのキャラとして不気味なんかじゃなくて楽曲からメンバーのヴィジュアル、バンドコンセプトに至るまで徹底的して不気味かつ猟奇的という性質でなりたっている。

桜の満開の木の下で

 それにしても最近のバンドと比べると、なおさらなんだけど音質込みでまるでブラックメタルみたいだ。汚い。だけどそれが一層不気味さを醸し出している。
 まぁどっからどうみても世間一般受けするようなバンドじゃない。口枷したメンバーが映るPVなんてこの人らぐらいだ。どういうなりゆきでこうなるんだよ。普通に生きていても口枷なんてやらないよ。こんなアブノーマルなバンドだったから彼らの与えた影響はほぼミュージシャンに限られているといっても過言ではない。だけどその影響力は半端なく、これ以降、蜉蝣やMerry、名古屋系と呼ばれたバンド諸々に至るまでいろんなバンドに影響を与えている。

 上の曲なんだけど、僕はもういい大人なので、長距離バスに乗って全国津々浦々ヴィジュアル系バンドを追っかけているバンギャってもうわからないんですけれど、この曲は今のバンギャにとっても聞けるのかな?いや、なんていうかここ数年でヴィジュアル系って随分と変わったわけじゃないですか?
 同じく猟奇性やらメンヘラを打ち出しているR指定なんかとは全く別物なわけだし。もっと音楽性が激しいデスコアとかテクニカルな要素の入ったヴィジュアル系も現れたりしているから、今のバンギャにとってMerry go roundってどう映るのかって単純に興味がある。

 歌詞の世界観は意味不明だけどとにかくこの歌詞に出てくる主人公的なやつはヤバイ奴ぐらいはわかる。Merry go roundのボーカルである真は安部公房からの影響を語っているインタビューがあったので、なんとなくシュールな情景はその影響が垣間見れるかと思う。
 すごくジメッとしたリバーブの効いた冷たいギターサウンド。今ではこういうバンドはめっきりいなくなってしまった。さぁどうでしょう?今のバリバリバンギャやってる人たちにとってこれを聞くことができるだろうか?キニナルー。

思春期の吸血鬼

 これなんかはどうでしょう?キャッチーでメロディアスでちょっと初期の黒夢にも近いものを感じるけど、歌詞の内容は多分、宮崎勤。

 現在もボーカルの真はgibkiy gibkiy gibkiyっていうバンドでバリバリ活動している。メンバーは元L’ArcのSAKURAがドラムを叩き、ベースが蜉蝣のKaze、そしてdeadmanのaieがギターを弾いている。ツワモノ揃いもいいところだ。このメンツだけでも見る価値がある。いや見に行くべきだ。

アングラヴィジュアル系の原型
 今のヴィジュアル系の不気味なメイクや黒服も遠からず、Merry go roundの影響だし、ハードコアとゴシックロックのハイブリッドっていう音楽性や殺人を題材にした猟奇性も、変態性も今日に至るまでのプロトタイプが彼らにある。
 もちろん彼らにも影響受けたバンドはいると思いますよ。ガスタンクとかDead endとか。この辺りを話すと長くなりそうなのでこれはまたどこかの機会に書きたいと思います。特にガスタンク。

 それでは

田渕竜也のTwitter

ついったウィジェットエリア