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クズたちの群像がやがて一つの正義になる『ローライフ』っていう群像劇を見てくれ

文:田渕竜也


 好きな映画のジャンルをあげろと問われたら、間違いなく群像劇物と言うと思う。

 例えば初期の頃のガイ・リッチーなんかは最高で『スナッチ』とか『ロック、ストック&フォー・ストールン・フーヴズ』なんかはガツンと極真空手の正拳突きを食らったようなぐらいドンピシャ。

 貧困にあえぎながらその日その日を生きる人や街を牛耳るマフィアや反社会的なブローカーなどいろんな人が混じり合って最終的には一つにつながっていく。そんな群像劇が好きだ。

 『ローライフ』の主人公、エルモンストロは、何かまっとうな人生について人並みの生活を送ろうなんて全く考えていなかった。彼は、自分の人生について、勝手に全ての事柄を自分ルールで運命付けていながら、偉大な父を超えられないことからこの世の全てを諦めていたのである。
 まぁ、自分の運命に生き、神の導きによって生きることで、彼は満足してしまって、何ら自発的なことをしようとはするんだけどできない。

 要するにこいつってダメ人間なんですよ。全く擁護ができないぐらいのダメ人間。筋肉少女帯の踊るダメ人間がふさわしい主人公である。キレたら自意識がなくなって暴れたおすし、それでいて戦闘になっても特別強いワケでもない。本当にどこまで行ってもダメダメ人間の主人公だ。

 元レスラーのエルモンストロは、先代から受け継いだルチャ・リブレのマスク姿で生きている。彼はメキシコ人の英雄「傷ついた人々を救うヒーロー」として知られるレスラー・モンストロは父であり、自分自身は?と言うと体の小さいと父親コンプレックスに埋もれ、マスクと名前を受け継いだ自称ヒーローでありながら犯罪に加担する元覆面レスラー・モンストロ。
 エルモンストロって父親に対する畏怖の念が凄まじいんですよ。まるで呪い。とにかく一族の恥を晒したくないというのが彼の強迫観念でもある。
 そんな彼の妻・ケイリーはもともと売春婦だったところエルモンストロに救われて結婚した背景がある。でもそんな彼女はヤク中の上、妊娠している。

 この物語に登場する人物たちはこんな感じでみんなダメ人間だ。病気なのに酒から手を離さない夫と金のために娘を売ったその妻であるクリスタル。クリスタルは夫を助けようと、移植する腎臓を探している。そして顔面に鉤十字のタトゥーを入れている唯一この物語における良心とも言うべき心優しい貧困白人・ランディ。その親友の黒人会計士キースは自分の犯した罪を帳消しにするためランディを利用しようとするバカでクズ。

 この濃いクズたちを結びつけるのがタコス屋のオーナーであるテディなんだけど、これはあくまで表向きなわけで裏では違法移民たちを掻っ攫って売春や臓器売買をやっている超ド級のサイコ野郎。
ストーリーにおいて常に貧困と移民がテーマになっているのでまるでメキシコ国境版ウシジマくんのようなのだが、エルモンストロがシリアスな場面でもずっとルチャ・リブレのマスクを被っているのでなんかこう肩に力を入れずにすむと言うか何と言うか絵図らがマヌケで緊張しない。結構エゲツないぐらいの人体破壊シーンとかあるからね。

 不法移民の話でトランプ大統領がメキシコ国境に壁を作るって言ってるけど僕ら日本人としては陸続きの国境がないからあまりピンとこない。だけどあちらさん側としてはめっちゃ深刻な問題らしい。この映画に出てくるランディなんてそうなんだけど今、アメリカではホワイトトラッシュという白人層の貧困も大きな問題になっている。
 なぜトランプ大統領が生まれたかという背景にはオバマ前大統領が移民の優遇政策をしていた云々の話があるんだけどここで語るには新書一冊分ぐらいになるので、手短にいうとどうやら低賃金の仕事は安くこき使える不法移民を雇うから仕事がそちらの人たちに流れていくって話がある。そんな鉤十字のタトゥーが入ってるランディは人種差別が嫌いだと言ってるんだけどこいつどこまでいいやつなんだよ。
 とにかく貧困が起こす親が貧乏なら子も貧困になる連鎖の話。過激性や色物な作品にとどまっていないアメリカ国内の社会性の一面もしっかりと描かれている。

 あと映画のタイトルである『ローライフ』なんだけど英語のスラングの意味で底辺の人間、前科持ちって言う意味でみんな確かにクズなんだけど一歩手前で良心を取り戻して思いとどまっていくのもこの映画のストーリーにおいて重要なところだと思う。ダメ人間だった彼らが一つに繋がって行くことで、ギリギリ一歩のところで踏みとどまることができる。
 そして物語のラスト、ネタバレになってしまうけど、エルモンストロの死に際、自分の息子にはマスクを託さず鉤十字の白人青年にマスクを託すところはこの映画におけるハイライトでもある。本当にこのエルモンストロが死ぬシーンはやっと彼は父の呪縛から逃れたんだなって思いました。あれはある意味呪いの一種でもあったんだろうなと。

終わりに
 結局、この映画の登場人物ってみんなクズなんだけどでも考えて見てくださいよ。現実の世界に目を向けて見ましょうよ。
 この世界にモンストロはいますか?社会に出ればやれ「大人になれ」って言われて不正を黙って見過ごすしかなかったり、ストレスフルな社会から毎日毎日500mmのストロングを3缶飲み干す日常。現実から目を逸らそうとする現状を考えれば彼らをクズと言えるだろうか?

まぁ今この国がローライフに進んでいっている現状もあるんだけどね。

とにかくこの映画はおすすめです。デートムービーとしては勧めないけどね。

それでは

田渕竜也のTwitter

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