他者の価値観に振り回されるのはもう止めよう

文:なかむら ひろし

 少し前に「令和の就活ヘアをもっと自由に」なんていうキャンペーンを展開しているところがあったけど、皆さんはどう思われただろうか?

 「賛同企業少ねぇなぁ」というのが私の第一印象なんだけど、まあ自由っていってもツインテールやモヒカンのような奇抜な髪型にする人が少数なのは当然としても、結局流行りの髪型が多数を占め、ネオ就活ヘアが誕生するだけ。そう思うのは私だけではないはず。就活イベントなんかで服装自由って言われても、ほとんどがスーツで行くんだから、髪型も同じことになるのかと。結局、無難な方を選ぶんだよね。

 でも、皆がそんな無難な方ばかり選択するとつまらなくない?雲のジュウザのように生きても良いじゃない。えっ?雲のジュウザを知らない?ク·ソ·バ·カ·ヤ·ロ·ウ···じゃなくて、今すぐ『北斗の拳』を読んで欲しい。

雲のジュウザ

南斗最後の将を守護する『南斗五車星』のひとり。ユリアのことを愛していたが、異母兄弟と判明してから『無敵の人』に。使う拳は我流で誰にも読めないと自負している。実際、かなりの実力者なのだが、「おれはあの雲の様に自由きままにいきる」と言って、海のリハクの命令をガン無視。南斗最後の将が直接懇願したことでやっと拳王様の足止めのために動いた。作中で働いたのはたったこれだけにも関わらず、大人気のキャラクター。

 『北斗の拳』における自由人と言えば、やっぱりこの人になるわけだけど、最初はユリアと決して結ばれることがないという運命に絶望して、それを紛らわすために好き放題やってるだけだったんだよね。将来への不安や社会への不満を抱えた若者たちが自由奔放に振る舞うのと似ているね。ただ、そんな若者も大人になるにつれて、多くの人が無難な道を選択していく。

 前回、「キャラクターが薄いことに悩んでいるならもっと自己主張するべき」っていうことを書いたけど、学校を卒業して、就職するようになると自己主張が許されないような場面がどんどん増えてくるので、そういった悩みが生じるのも不思議なことではないかもしれない。自由に生きるにはリスクが大きいからね。

 採用試験って企業側から黒髪にスーツで来いなんて言ってこないと思うんだけど、ほとんどの人が黒髪にスーツで行くと思う。それが常識って言ったらそれまでなんだけど、別に普段着で行っても良いはずなんだよね。それで採用されるか、されないかは別にして。

 だけど、採用試験に普段着で行く人って、信念があってのことだと思うんだよね。南斗最後の将に会った後のジュウザの如く。「上っ面だけの面接なんて意味がない。お互いに腹を割って話すことが双方にとって利益。そのために普段着で来た。」なんて言っても、ほとんどの企業が採用しないとは思うけど、そんなリスクを犯してまで信念を貫く人がいるとしたら、何か成し遂げそうな気がするよね。

 話は変わるけど、あなたの周りに買い物や食事をする時にやたらレビューを気にする人はいないだろうか?他者が良い評価を付けているお店、モノは間違いないと思い込んでいる人。確かに得体の知れないお店やモノを選択するより、多くの人が評価している方を選択するのは無難だろう。身銭を切って良いものかどうか分からないものを購入するリスク、または他者からセンスを疑われるリスクなんかを犯したくないという心理が働くのは無理もない。

 だけど、無難な道ばかり選択していると、画一的なつまらない人間になってしまう危険性が高いと思うんだよね。同じような髪型、服装をして、持っているモノも食事も同じ。そして、口から出る感想まで同じ。経験はその人の感性であったり、価値観であったりを形成する上で非常に大きな要素なのに、皆と同じ経験ばかりしていると、それも画一化されていく。

 感性や価値観などが画一化されてしまうと、今度は新しい創造へのハードルがとんでもなく上がってしまう。画一化された価値観の中で創造しないと、誰も見向きもしないからだ。また、他者の評価を見てからじゃないと行動できなくなると、新しい事業を始めたところですぐ潰えてしまう。だけど、実際にはそうはなっていない。それは一部のリスクを恐れない人間が他者の評価など気にせず、己の意思で動いているからなんだよね。

 リスクを恐れて、慣習や流行に流されるというのは主観を失い、他者から与えられたものを享受するだけの思考停止状態。それに対して、他者がどう思っていても、自分が良いと思うものを追求し、他者とは違う経験をして、独自の感性や価値観を形成する。それが新たな付加価値を生み出す。これからの時代、主観を失わずに行動できるというだけで大きな武器になってくる。

 別に採用試験に普段着で行けとか、起業しろとか、先物取引に手を出せとか言いたいわけじゃない。いい加減、他者の価値観に振り回されてばっかりは止めようぜという話。最期まで己の意思で行動することができたら、きっとジュウザのように笑って死ぬことができるはず。

 我々『てんぷら』は「流行をなぞり、大衆に迎合することを否定する」っていう理念で活動しているわけだけど、別に流行りものってだけで排除しているわけじゃない。好きか嫌いか、自分にとって有益かそうでないかを各自で判断しようっていうスタイル。

 ちょっと古いけど、私はグラノーラが好きなんだよね。最初は「鳥のエサじゃねぇか」ぐらいに思ってたんだけど、実際に食べてみるとこれが意外と美味しくて。ちなみに私は好きじゃないけど、田渕さんはタピオカが結構好きらしいよ。

 何が言いたいかというと、思考停止状態でただただ流行を否定するのもまた良くない。実際に体験してみて、己でジャッジしろってことだよね。新たな付加価値を生み出すにはやっぱり流行を研究するってことも重要。残念ながら独りよがりではダメなんだよね。

 ここまでダラダラ書いてきたけど、これもまた私の価値観でしかない。取り入れるのも取り入れないのもあなたの自由。あなたの人生、よく考えてくれ。

 それでは健闘を祈る。

なかむら ひろしのTwitter

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