できないことは他者にやってもらおう

文:なかむら ひろし

 私は小さい頃から「他人に頼るな」「自分の力でなんとかしろ」「苦手なことから逃げるな」なんて言われて育ってきた。皆さんの中にもそんな方はいるんじゃないだろうか?

 実際、他人に頼ってばかりの甘ったれではダメなんだけど、何でも自分の力でやろうとするのもどうかと思うんだよね。この世の中にはどうしても自分の力だけではどうにもならないことがある。どうにかなったとしても、莫大な時間やコストがかかってしまったり。

 ぶっちゃけ自分にはできない、難しいことは他者に代わりにやってもらった方が良いと思うんだよね。モヒカンよりも遥かに弱いコウケツ様が天下を取れたのはそこ。え?コウケツ様って誰だって?そんなあなたは今すぐ『北斗の拳』を読んで欲しい。まあ出てくるのはかなり後半だけどね。

コウケツ様

元拳王軍の馬係。モヒカンたちから常日頃バカにされるほど戦闘員としての価値はなく、拳王様に媚びを売ることで出世を目論むも公衆の面前で一喝されて失禁するという悲しい過去を持つ。拳王様亡き後、荒れ地を開拓し、農場を経営することで成り上がり、数多のモヒカンを統率する立場となった。ただ、やり方は体育会系への憎悪を燃やしたブラック経営。

 自分ではできないことを他者にやってもらうことは恥だのプライドがないだの悪いことのように言われることが多いと思うんだけど、これって言い方を変えると「助け合い」とか「チームプレイ」なんだよね。実際に当たり前のように行われていることだし、そうしないと世の中は回っていかないわけで。

 例えば、お店でカレーを食べる時のことを想像して欲しい。カレーを作ってる人と接客してくれる人が同じ人とは限らないし、カレーを作っている人と食材を作っている人が同じとも限らないよね。カレーを売りたいのなら、美味しいカレーを作れる人、そのための食材を作れる人、接客ができる人なんかを集めて、その人たちにやってもらったら、自分がそれらをできなくてもカレーを売ることはできるんだよね。

 それをカレーを売りたいから、農業や畜産の勉強をして、食材を生産するところから始めて、今度はスパイスやら調理法やらを勉強してなんてやってたら、カレーハウスをオープンするまでにどれだけの時間とコストがかかるのかって話。仮に全てのことができる能力が最初からあったとしても、独りでやったところで、その労力に見合う利益が出せるのかって話にもなる。美味しいカレーが作れる人はカレーを作ることに専念して、他のことは他者にやってもらった方が圧倒的に効率が良い。何でも自分でやらなきゃいけないという強迫観念に囚われていると時間を無駄にするだけ。自分でやる必要がないことは他者にやってもらうべきなんだよね。

 ただ、そこで問題になってくるのが、世の中には「多くの人ができること」と「多くの人にはできないこと」があるっていうこと。当然、後者ができる人っていうのは希少だからパワーバランスが違ってくるよね。サラリーマンは辛い。

 コウケツ様は戦闘ではモヒカンなんかより遥かに弱いわけだけど、モヒカンぐらいの戦闘力を有する人なんて山ほどいるのに対して、コウケツ様のような食物を生み出す経営力を持った人は希少だからコウケツ様はモヒカンを統率する立場にあるんだよね。

 そうやって立場が上になると、往々にして横暴な態度を取りがちだ。そんな人に無茶な要求をされた時に「お前もできないくせに偉そうなことを言うな」とか「だったらお前がやれや」なんて思ったことは誰でも一度はあるはず。自分にできないことを他者にやってもらうことに対する印象が良くないのは、これが原因のひとつだと思う。

 ただ、他者に要求できる資格があるのは完璧超人だけだというのは何とも息苦しいわけで。我々に求められるのは完璧超人になることではなくて、他者に物事を頼む力なんだと思うんだよね。

 まず、自分ができることはきちんとやるという前提で他者に頼むこと。部活の先輩にただ単に「パン買ってこいや」と言われたら「自分で行けや」ってなるけど、「お釣は好きなように使っていい」とか「その間、片付けはやっておくから」とか言われたら、まだ行ってもいいかなって思うんじゃないかな。

 次に頼み方も重要だと思う。言葉遣いもそうだし、やる側が納得できるような言い方とかね。自分の方が立場が上だったとしてもあくまでお願いするという形だよね。あとは結果に対して、文句ばっかり言わないことも重要。折角やってあげても文句ばっかりだと二度とその人に何かをやってあげようと思わないよね。そして、期待にそぐわなくてもお礼は言おう。

 そうは言っても特にビジネスなんかでミスばっかりされるとダメなのも事実。本当は惣菜パンが食べたかったのに菓子パンを買ってきたら、次は最初から具体的に何を買ってくるように言うとか、それがなかった場合の代替品まで伝えておくとか、やる側が自分の期待に応えやすいような指示や環境を可能な限り用意できるように自分の中で反省できる点を探そう。

 仕事をしていると、他者に仕事を頼むことが苦手な人ってたまにいるんだけど、いくら実務能力が高くてもあんまり評価はされないんだよね。結局、会社だとかの組織運営ってチームプレイが要求されるからさもありなん。

 私が見てきた他者に仕事を頼むことが苦手な人には3パターンあって、ひとつ目は以前ちょこっと書いたことがあると思うんだけど、他者を信用できない人。最後は自分がチェックしないといけないんだから、自分でやった方が確実だし早い、他者に説明したりする時間が勿体ないとか言っちゃう人ね。まあ後任が育たない。その人がいないだけで職場は大混乱とか笑えない。こういう人はチームプレイに向いてないので、改められないなら個人で何かをやった方が良い。

 次は他者に仕事を頼むことが恥ずかしいことだと思っている人。やたら他者からの評価を気にするタイプね。前者の場合は割りとキャパが越えそうな時は簡単な仕事を振ったりはするんだけど、このタイプはめっちゃ無理するんだよね。だから、とても潰れやすい。こういう人はもう少し視野を広めた方が良い。評価されるポイントはひとつじゃない。

 最後は忙しそうにしてる人にさらに仕事を振るのは申し訳ないとか言って遠慮しちゃう人。私の経験だとこの手の人って優しいとかじゃないくて、ぶっちゃけコミュ障なだけのような気がする。幼稚園児にも敬語を使っちゃうような気の弱さ。まあこういうタイプで出世してる人を少なくとも私は見たことがない。まずは「あれ取って」ぐらいの小さいことからでも良いので、他者に頼むという行為を練習していくことかな。

 まあそんな感じで他者と協力してやっていくっていうことはとても重要だよっていう話。できない仕事は他者にやってもらおう。その代わり、あなたができる仕事は他者の分までやる気概を持とう。あなたができる仕事が他の人にはできないことだってあるんだから。

 極論、他者を上手く使える人間は他は何もできなくても最強なんだから、そこを鍛えていくのはとても有益。健闘を祈る。

なかむら ひろしのTwitter

ついったウィジェットエリア