浜村淳と話芸、そして怪談
なんとなくAMラジオを聞いていた。ラジオからは浜村淳が七草がゆについて語っている。朝の8時からやっている「ありがとう浜村淳」っていう番組。関西では「さて、みなさん」でおなじみのローカルなラジオ番組だけど40年以上もやっている化け物番組だ。いつまでこの話題を引っ張るんだろうと思っていたら30分経てど話題が変わらない。そしてついには番組が終わるまで七草がゆについて語っていた。
皆さんは七草がゆって知ってますか?どうやら関西では1月7日は七草がゆを食べるっていう風習があるらしいんだけど、浜村淳はそのことをこのラジオ番組で二時間もぶっ通しで語っていたのだ。二時間も語ることってありますか?お粥の話題で。普通の人は絶対無理。話芸を超越した何かだ。どうかしてる。
ていうかそもそもなんで俺はAMラジオなんか聞いているんだ。
関西ではラジオパーソナリティ、映画解説、墓地のCMでおなじみの浜村淳。
特に映画解説なんかは映画愛好家の間では有名である。その解説はネタバレどころかエンドロールまで本編前の解説で喋ってしまうからすごい。いやとんでもないよな、映画を観る前に全部語ってしまうなんて。しかもその語りが本編より面白かったりするからなおたちが悪い。
昔、深夜の映画で「Blood the last vampire」の解説なんて「ほんの少しストーリーをご紹介」って言いながら解説すること10分。長いよ。それで小夜がヴァンパイアということをネタバレした上、確実に本編よりも内容が面白かったことを今でも覚えている。
どうでしょうか?これが浜村淳です。これでもいまいち浜村淳と聞いてピンとこない方は任天堂64の007ゴールデンアイのCMで水野晴郎と出演していた人といえばわかるだろうか?いや古すぎるか?
とにかくこの人の喋りはえげつない。京都弁に近い関西弁だけどなんか違う。なんとなく関西の言葉かと思えばやっぱり違う。思えば関西では「さて、みなさん」なんて言わないよな。
イントネーションは関西訛りなのに文字にすると標準語に近い。この喋りってどの方言にもないほぼオリジナルの浜村淳弁なのだ。
これが彼の喋りの魅力の大きなポイントだと思う。下品すぎず、上品すぎないちょうどいい塩梅の喋り。唯一無二である。この喋りで一つの話題で二時間持たすからおそらく話芸では聖域のレベル。
そんな浜村淳なんだけど、なぜかたまにその独特な喋りが無性に恋しくなる時がある。だからたまにAMラジオなんていう昭和の遺産を聞いてしまうのだ。
おそらく関西圏内の喋りでは浜村淳の右に出るものなんていないかと思う。だけど実は怪談話もやっていたのはご存知だろうか?そう、この独特な喋りと話芸で怪談を話すのだ。面白くないわけがないと思うじゃないですか。
その怪談はかつてPlayStationで発売された『大幽霊屋敷 〜浜村淳の実話怪談〜』で彼の貴重な怪談を聞くことができる。サウンドノベル形式のゲームであるけど、浜村淳のフルボイスが収録されている。
浜村淳 怪談集
動画の怪談は『大幽霊屋敷 〜浜村淳の実話怪談〜』の一部である。いかがだろうか?うん、言いたいことはわかる。いろいろとツッコミどころが満載だ。
七草がゆだけで二時間持たせる話芸を持っているからやっぱり浜村淳の喋りは一級にうまいんですよ。その恐怖場面の状況はわかりやすいし、滑舌も何言ってるのかわかりやすいからストーリーの最後までちゃんと聞ける。
だけどこの喋りが例の浜村節が効きすぎて、オドロオドロしさなんかは皆無で全然怖くないんですよ。それどころかあまりのハキハキした喋りと浜村節で笑いが出てしまう。
それからこの怪談のもう一つの問題点としては映画解説のときほど話に熱がこもっていないことだ。言うなれば始めから存在している台本をその通りに浜村節で淡々と話すようなそんな感じ。なんとなく浜村淳を看板にしたこのゲームの怪談の違和感ってそこにあるんじゃないかと。
例えば稲川淳二なんかは話としてはめちゃくちゃだし、滑舌も良くないから何言ってんのか最終的にはわからなくなる、だけど怪談を語る熱がすごいんですよ。何かが迫ってくる擬音、恐怖に怯える心情。結局、話はよくわからないけど何かを伝えようとするアツさが凄まじい。
この何かを語るときのアツさってやっぱり人を魅了する。ほら、水野晴郎や淀川長治の映画解説って今でも愛されているけど、有村昆の映画解説って全く愛されてないでしょ?これって映画を語る際の話の熱量の差なんだと思うんですよ。とにかく楽しげに嬉しそうにアツく語る水野晴郎と得意げな涼しい顔をしてウンチクを垂れる有村昆。この両者で話が愛されるのはやっぱり前者なわけなんですよ。だって必死に伝えようとする姿ってなんだかんだ聞き耳を持ってしまうから。だから水野晴郎の映画解説は今だに見られているし映画愛好家から愛されている。
浜村淳の映画解説の時って勝手な場面解釈で語ったり、かなり意訳に飛んだ話し方をするんだけどやっぱり話のアツさがあるんですよ。解説は全部アドリブで語っているらしいし。だから彼の映画解説は面白いし、人を魅了する。
まぁこの動画の怪談の場合、ゲーム作品だからあまり勝手な喋り方ができないのは仕方ないんだろうけど、やっぱり怪談話としては面白くない。っていうかなんで浜村淳で企画したんだろうな。これなら北野誠でもよかっただろうに。
ちなみにだけどピックアップした動画の怪談話は怪談としてはかなり正統派な話ばかりだ。話の流れははじめに全体の世界観を説明して次に主人公目線になって怪異が起きてオチにつながる。だいたいこのフォーマットで話が組まれている。
それからこの怪談集に登場するかぐや姫の解散コンサートの怪談ネタなんかはある意味スタンダードな怪談話で昔、奇跡体験アンビリバボーでも特集が組まれていたのを憶えている。若干、アレンジが加わって「私にも聞かせてぇ〜」の浜村節でオチを叫ぶのは爆笑ものなんだけどね。とにかく節が強い。
まとめると浜村淳のこの怪談は多分、ゲームの企画っていうこともあって独特の節は健在だけど、アドリブ性が皆無。だからいつものラジオや映画解説の時みたいに話のアツさがなくずっと淡々としている。これがこの怪談集の違和感の正体ではないだろうか?
ところで浜村淳の怪談は全く怖くないとネガティブなことを再三言ってきたけど、僕個人が浜村淳の喋りが結構好きなのでこの怪談がダメなわけではない。むしろ淡々と語っていくから何か作業をしているときなんかにはかなり最適なBGMになるんじゃないかと思うぐらいだ。ドライブ中、仕事中、家事の最中なんかに多分、浜村淳の怪談はぴったりだと思います。
一度そんな聞き方やってみてはいかがだろうか?
それではまた次回。