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絶滅危惧種、白塗りバンド。ストップしたヴィジュアル系経済。

文:田渕竜也


白塗りバンドというものがある。その名の通り白いドーランを塗ったメイクでライブパフォーマンスを行うバンド全体を指す言葉だ。
その歴史はいつ頃から始まったのだろうか。諸説あるだろうけど、おそらくKISSが広めたという点ではどの論客も一致するところだろうと思う。

彼らが有名になったのは1974年のアルバム『キッス・ファースト 地獄からの使者』からだと言われている。当初、はホラーなイメージなどで色物として扱われて批評家からは散々な評価な作品だったけれど、発売から2年後にはプラチナアルバムとして認定されるほどの名盤となった。
そんな彼らから現在に至るまでの46年間。ここ日本国では様々な白塗りバンドが現れた。Doom、聖飢魔II、Malice miser、犬神サーカス団、毒殺テロリスト。オイルショックの時代からバブル崩壊後に至るまで、この白塗りバンドというものはメジャー、アングラそれぞれの道で成長しテレビの向こうの僕らやライブハウスで歓喜をあげる僕らを阿呆みたいに楽しませた。

だけどメディアの弊害っていうものもあって、未だにテレビや映画に出てくるデスメタルバンドヘヴィメタルバンドって決まって白塗りのバンドが出てくる。待ってくれ基本、デスメタルはメイクしないし、もっとパンキッシュなファッション。白塗りでそれに近いのはブラックメタルか初期マッドヴェインだよ。
多分、LAメタルの髪を逆立てた見た目とXと聖飢魔ⅡそしてKISSのパブリックイメージがごちゃ混ぜになった結果、なぜかヘヴィメタルは白塗りっていう風潮が生まれたのではないかと思う。

ところで白塗りバンドって最近見ますか?多分、今一番活躍しているのはジャガーさんかもしれない。
この間、とある白塗りバンドをやっている人のバーに行ってその界隈について質問した。そしたら「白塗りバンドはもう絶滅危惧種。若いやつがやりたがらない」そんな答えが帰ってきた。
確かに白塗りバンドを探しても大抵は古いバンドか元白塗りバンドのメンバーのソロプロジェクトだったりする。若い奴がいない。トキと同じ状態だ。

若者の白塗り離れ、そう言ってしまえば簡単な話になるんだけど、そんな単純な話でもないらしい。そもそもでいうとメイクをする若手バンド自体が減ってきた。
メイクをするバンドというのはヴィジュアル系全体も指すことになるけど、思い起こせばこの兆候ってネオ・ヴィジュアル系時代からあったと思う。そう、ホスト系メイクのヴィジュアル系バンドが乱立したあの時代だ。
そういえばあの頃には白塗りってほぼ消えていたように感じる。その辺りの時代の白塗りって多分、犬神サーカス団とかストロベリーソング・オーケストラぐらいしか思い浮かばない。

あの頃を思い返すと90年代のヴィジュアル系と比べて女性人気の必要性が大きな割合に変わったように思える。だから美しい女形、可愛いと言われるようなショタ的なメイクに変化していった。そんな美醜の変化がやってきたから白塗りは若手がやりたがらない。だって見た目が奇異だから女性人気はつきにくいし、色物感またはお笑い感がどうしても出てしまう。
そんなわけでみんなホストメイクでデスボイスにいってしまったから、白塗りはさらに消えていき、その挙句、少しバンドが売れてメディアの露出を多くしようとするバンドたちはメイクすらしなくなった。

これではヴィジュアル系なんて冠はないようなものだ。その結果、そのヴィジュアル系という音楽シーン自体にメイクという本来の意味などは消え失せ、ただの独特な歌い方をする歪なジャンルとなった。そしてその人気はさらに下降の一途をたどることになる。

その証拠にあの頃のネオ・ヴィジュアル系でメジャーへ行った人たちを思い返してほしい。極々一部を除いて大体メイクが薄くなるとたいていは当たり障りのないポップな音楽性に変化していき解散してます。みなさんも見に覚えはないですか?誰とは言いませんけどね。
これは新規ファンを獲得しようとメイクをやめて大衆的音楽を目指したけど、メイクをしていた時代のファンたちが離れ、それに追い打ちをかけるように思ったほど新規ファンを獲得できなかった結果なんだと思う。結局、ヴィジュアル系という枠組みじゃないと生きていけないバンドだった。まるでナウシカだ。メジャーという腐海に飲まれてしまった。

近い世界でいえばアイドルなんかも同じで一度グループから脱退してしまえばあまり日の目を見なくなってしまう。よく「女優を目指します」とか「自分の高みを目指します」なんて言ってグループから消えるけど、結局、芸能界そのものから消えてしまう。
これもアイドルという枠を取っ払った結果、ただの女になってしまった結果じゃないかなって思う。アイドルというラベルがついていたからこそ人が見てくれていたんですよ。じゃあそれを取っ払ったら誰も見てくれないことになる。
そういえば初期BISにいた人たちって今なにやっているんでしょうかね。だから一度、アイドルとかヴィジュアル系とカテゴライズされてしまえばそこから脱するのは難しい。そのファン層はラベルしか見てないから。

多分、そういったヴィジュアル系界隈からの成功例ってDir en greyぐらいじゃないだろうか。彼らのすごさってアルバムを出すたびに音楽性と見た目が変わってる。ついてくるならついてこいの精神。本人らもすごいけど、そのファンもすごいと思う。だって初期、中期、現代、それぞれで全くの別ジャンルのバンドになっているからこんなの普通のファンはついてこれない。

逆に一途で考えるとガゼットってすごいと思う。もうずっとコテコテにメイクしている。れいたもいつまでも鼻マスクしている。ヴィジュアル系という世界に生き続ける。これが長年、このバンドの人気を維持できる秘訣なのではないだうなと。

ここまでまとめると若手が白塗りをやりたがらない理由はそもそもヴィジュアル系の人気の低下に要因がある。

ヴィジュアル系のシーン自体が低迷しているから今では白塗り系のイベントをやっているところすら少ないように感じる。新潟とか東京ではやっていることはやっているんだけど少なくとも大阪では随分と絶滅危惧種だ。
イベントが少ないっていうのはかなり痛手であって、白塗りバンドってタダでさえアングラな音楽性と見た目だからCDを流通させにくい。だから物販で売ることができる場所すらなくなってしまえばそれは死活問題だ。ヴィジュアル系のイベントは貴重な収益の場所だから、それがなくなってしまえばバンドとしての収入源がなくなる。
結果的に有名なバンドならまだしもインディーズカーストの下層部にいるバンドたちにとってはイベントに出られなければバンド活動ができないし、収益化ができない。だから普通のバンドにならざる得ないっていう僕個人の説があるんだけどどうでしょうか?
これは白塗りの話をしようとしたけど考えれば考えるほど問題は大きく、この白塗り絶滅問題はどうしてもヴィジュアル系全体の話になる。

このままヴィジュアル系は終わってしまうのか?多分、いま現在の復活は正直、難しいと思う。
理由としてはヴィジュアル系経済が止まっていること。ヴィジュアル系という記号をどんどんと消費して、そこから進化したネオ・ヴィジュアル系という記号をさらに消費していく。この流れがないとヴィジュアル系という資本主義経済は回らない。この消費の流れを止めないでずっと回すことによって勝手に経済は良くなりますよっていうのはアダム・スミスの話だ。
この考えで考えれば今のところ新しいヴィジュアル系ってネオ・ヴィジュアル系という記号でストップしている。この記号ももう14年以上も前の記号だ。これだけ長い年月、新しい記号ができなければ新自由主義を謳うこの国ではどうしても廃れる。

一番のミスはゴールデンボンバーが登場したときにしっかりとしたムーブメントとして捉えなかったこと。彼はヴィジュアル系最後の英雄だったけど、あまり真剣にヴィジュアル系として捉えきれなかった。むしろお笑い枠としての捉え方が大きかった。
多分、ここに時代のifが生まれていると思う。もしこの時、無理矢理にでもエアーパフォーマンス、アイドル性全振りのヴィジュアル系をムーブメントとして捉えていれば…。そんなことを考えたりしているんだけどどうでしょうか?
僕としてはネオ・マリスミゼル系として楽器を持たないヴィジュアル系グループとか出てきて面白い世界が広がったんじゃないかと思います。

今日はこのあたりで。それでは。

田渕竜也のTwitter

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