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必要なのは非言語性。人間椅子の世界戦略

文:田渕竜也


人間椅子が世界へと飛び出そうとしている。

かつては古いバンドというものはライブハウスで古参ファンとともに歩んでいくのかと思えば、それはもう古いライフスタイルなのかもしれない。
だってそんなところでやっていても結局やってくるライブハウスの顧客が年々高齢化しているワケだから古いバンドがファンの若返りを図っても高齢化は歪めない。

では若い人たちはなにで情報を得ているかと考えればやはりネットなわけで、そこから情報を仕入れてフェスに行く。そして自分のフェス体験を共有して自分を拡散させる。
だから音楽という他者じゃなくて音楽で色飾る自分の時代。これが今の若い人たちの音楽情報収集スタイルなのかもしれない。

かつてはアナログで口コミ、もしくは雑誌の記事などでバンドの情報というものを仕入れてるのが前世代のバンド戦略だった。

前の世代といってもたった20年ほど前の話である。スマホもSNSもない時代。本当に何してたんだろう?なんかひたすらガストでドリンクバーでアイスコーヒー飲みながらバンドの話をしていたような気がする。

そんなローテクな時代だったから地味なバンドって売れなかった。ライブハウスから始まって口こみで広まるのが当時の戦略だったから派手なヴィジュアル系って90年代当時一大ブームになったんだろうと思う。

人間椅子も当時はそうだったと思う。ライブハウスで地道にやりながらイカ天でプチブレイク。卓越した技術と作曲センスというバンドとしてのかっこよさとねずみ男がベースを弾いているというインパクト。これが口コミにならないわけがない。

そのあと、また地道なライブバンドになったんだけど、まだSNSがなかった中学時代の僕の場合も人間椅子を知ったのはやっぱり口コミ情報だった。「なんかベースが白塗りでボーカルが文豪なバンドがいる」そんな情報だったと思う。
もちろんその時代はYoutubeがなかったからどこで安価で音源を仕入れるかというとBook offである。特にイカ天ブーム時代の音源はBook offで叩き売りにされていたから安く音源を仕入れられたかと憶えている。

だけど時代は移り変わってインターネットに戦略の主戦場は変わった。音源という情報はほぼタダで聞けるようになり、しかもその音源が日本にとどまらず世界にも発信できるという時代の革命が起きた。
そんな現在、人間椅子は全キャリアから見ても全盛期を迎えているスーパーサイヤ人状態といっても過言ではない。ますます人気がとてつもないことになっている。

というのも新規ファンの伸び率が半端ないのだ。それも若いファン層が拡大していっている。
僕の知っている限りでは今、22歳の若者が輪島慎二のギターに憧れてギターを始めた人がいる。すごくないですか?こんなファン層の若返りを上手くやったバンドって今まで見たことがない。
普通は新規ファンの伸び率に悩んで結局は常連ファンにしかウケなくなってしまうんだけど、人間椅子はまさにその逆を行く。

そこで今回はそのファン層の若返り、世界戦略のキーポイントである人間椅子のインスタとYoutubeの非言語性をうまくつかった巧みさについて考えて行きたい。

虚無の声

おそらく人間椅子の中でもファン層若返り戦略となる大きな分岐点となった曲だろうと思う。その前から和嶋慎治がももクロのギターを弾いた、オズフェスにでたりしてその伏線はあったけど、バンドとしてはこの辺りから明らかにサウンド面が太くなって海外を意識し始めたかと思う。

無情のスキャット

そしてこれが世界的ブレイクを決定づけたんだろうと思う。見ての通りコメント欄は英語だらけだ。

今のYoutube市場って日本人が日本人に向けて配信する形が多いかと思う。ヒカキンにしても江頭にしても日本の売れっ子Youtuberと言われている人たちはみんな言語が日本語である。けど日本というマーケットはインターネットの世界で考えれば結構少数なわけでネットの世界をみれば公用語はほぼ英語である。
そんな日本語という狭いYoutube市場で日本人同士で陣地の取り合いなんて流血沙汰。だから芸能人が流入してくる昨今から考えてみれば絶対に勝てるわけがない。江頭に本田翼、宮迫。芸能界トップではないけどそんなレベルの人でも素人王者では歯が立たないワンパンでマットに沈められる。
ならこの市場でどう戦えばいい方向へ持っていけるかと考えれみれば日本語で戦うことをやめればいいだけの話。そう非言語化にして誰でも理解出来るようにするのだ。

無情のスキャットがなぜ海外でウケたかといえばサビの非言語化にある。そう、「シャバダバ」のところ。洋楽とかではよくあるんだけどサビのリフレインをみんなで歌えるようにすることで聞いている人を一つにする方法を取ることがよくある。よく知られている曲でいえばQueenのWe will rock you。これなんかも非言語の代表でAメロとかBメロは全く歌えないけどサビになればみんな「ウィーウィルウィーウィルロッキュー」って英語喋れない人も歌える。これが非言語である証拠でもある。
人間椅子の無情のスキャットも同じで海外の人たちは日本語なんかは喋れないし理解できないけど「シャバダバ」って歌える。「みんなが歌える」これがこの曲が海外でもウケた理由だろうと思う。

あと一点として、メタル愛好家の音源収集癖にもあるだろうと思う。例えば我々とてスウェーデンやノルウェーのブラックメタルバンド、コルピクラーニを知っているのと同じ具合と同じだ。
特に人間椅子の場合はフォークメタルバンドとしての認識とハイクオリティな音楽、和風文豪というコンセプトのヴィジュアル面が見事に噛み合った。
無情のスキャットが世界的にバズったわけだから、これを見つけた海外のメタル愛好家が喜ばないワケがない。

以上が人間椅子がなぜ海外で受けたかの分析だ。どこまで計算でやったかはわからないけど、少なくともサビの非言語化は世界戦略を狙って作ったとワシは睨んどる。

また、人間椅子はインスタグラムの使い方がうまい。

というのもだいたいのバンドってツイッターに注力するじゃないですか。僕が思うにツイッターって実はバンド宣伝には不向きではないかと思うんですよ。
文字情報のツイッターってパッと見で得られる情報のインプット時間って結構かかる。文字読んで、理解して、さらにそこに画像があってよほど好きな情報でない限りあまり読む気がしない。
それに狙ったターゲットに届きにくいっていう面もあるから実はバンド宣伝には不向きなんじゃないかと。

インスタの方は、画像がメインなのでバンドの様子を特定のターゲット層のハッシュタグに向ければいいだけだからツイッターに比べて破格にその情報が欲しい人たちに届きやすいのではないだろうか?

インスタの最大限の武器は画像を用いた非言語だ。ハッシュタグという短い文字情報で情報を紐ずけてファンを獲得していく。
人間椅子のインパクトあるビジュアルはまさにインスタにもってこいの存在感だし、世界でのユーザーもツイッターに比べてダントツなわけでやっぱり宣伝ツールにインスタを選ぶあたりも世界戦略のうまさがある。


余談になるけどこちらの動画はギターボーカルの和嶋慎治がただただソロキャンプをするという動画です。
こういった人間味を見せるのもファンの若返りのポイントがあるかと思います。

終わりに
今回、人間椅子がYoutube、インスタでやったことは言語がわからなくても赤ん坊でも理解できるという点に注力した結果だったと思う。
もちろんバンドとしての魅力がまずないといけないですよ。もともと人間椅子というバンドの持ってるかっこよさが大前提としての話。
ネットマーケティングのおかげというより海外で受けるかっこよさがあった上での世界戦略の両方が合わさった結果と言ってもいい。その上でのマーケティングだ。

かつて素敵やんで有名な島田紳助が「Xの軸とYの軸を理解できないと上手くいくはずがない」と言った。Xとは個人の才能出会ってYは時代の流れという。今回の人間椅子はこのXとYを上手く分析した結果だ。そして今人気が絶頂期に達している。

ファン層を広げ、若返りを果たした人間椅子。やっぱりかっこいいな。

それでは。

田渕竜也のTwitter

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