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あの頃を思い出せ!ロマン急行を聞け!

文:田渕竜也


もう高校時代なんて卒業して10年以上経つけど、未だにその頃の夢が鮮明に見てしまうことがある。

夢の内容は提出期限の迫った油絵の課題が描きれていないのだ。
さらに言えば寝坊して出席日数もギリギリで留年寸前。

うわーって焦っているところでいつもこの手の夢は覚めてしまう。

朝起きてそんなことに途方にくれ、もういい加減にしてくれと自分に纏わり付いた記憶という呪縛に嫌気がさすとともに「あぁよかった夢だったんだと」安堵の気持ちが込み上げてくる。
それとともに何だかノスタルジーな気分の中、複雑な目覚めで目を覚ますのだ。嫌な目覚めだ。

一説によるこういった課題やテストなどの試練が与えられる夢というのは、現実世界に於ける試練に対して不安を和らげるためのものらしい。

「ああ、もうダメだ」とぷよぷよで詰んでしまったときのような焦りの中で目が覚めて胸を「ほっ」となでおろして「まぁ、現実も悪くないな」と今現在を肯定させてくれるのだという。いわば予行練習みたいなものである。

しかし考えてみれば、そんな夢の中の過去よりマシと思っても現実の方が無情にも時は過ぎていく。

自分は老け込んでいくし、あの時の友人たちとも疎遠となって思えばめっちゃ現実の方がずっと残酷だ。
ほんと20代終盤になるとガクッと周りの人が消えていくからな。覚悟しておけよ。

だから年をとるとみんな過去という思い出の泉に浸っていくんだろうなと思うんです。現実って逃げ場がないから。

突然ですが、ロマン急行ってバンドを知っていますか?
・露出狂がボーカルしている
・よく中野駅周辺で撮影している
・ギターが元Sex-androidの人
・ベースが元No Godの人。そして女装に戻ってる
・寺小屋に所属している

知っている人ならこんな感じだろうけど知らない人からしたら
・知らん、以上
なのだろう。まぁその通りだ。

音楽面で言うと、ヴィジュアル系ではあるけど、デスコア的でもハードコア的でもブルデス的でもない。
どストレートでオーソドックスなバンドサウンドである。

昨今のヘヴィを追い求めたり、エグいスウィープなどのテクニックをさらけ出しているわけでもない。
キャッチーなメロディがあってコードがあってビートがあっての本当に普通にロック音楽。
今のヴィジュアル系界隈から考えると正反対の音楽性とも言える。というよりボーカルの歌い方もヴィジュアル系的ではないな。

そんなロマン急行はバンド自体はオーソドックスであるけど、彼らの音楽の視点は「ノスタルジー」という目線でこのなんとも言えない懐かしい感じでここでもあまりヴィジュアル系っぽさがない。

これが今回のメインの話になるけど、僕は過去を振り返ることってあまり好きではない。

そもそも思い出に浸ること自体が何もない「無」である。それに何かを思い出そうにもロクな思い出しか思い出せない。まるでパンドラの箱のようだ。

そう、思い出は汚ければ汚いほど思い出せる。それが色あせて彩度が下がっていけば、細かいところが見えてこなくなって、何となく笑える思い出として懐かしさを覚えることになるのである。

しかしそんななんでもない懐かしさ、ノスタルジーを思い起こさせてくれるのがこのロマン急行である。

彼らの音楽を聞いていてしょっぱなにくる感想が何度も言っている「懐かしい」なんだけど、それではあまりにも薄っぺらい一言だ。

もはや履いて捨てるようなコメントである。ただ、彼らの音楽を聞くと「懐かしい」しか見当がつかない。

しかしそこがこのバンドのエモーショナルなのである。

サビ始まりの別れを予感させるところかなんか懐かしい。

まるでライ麦畑のホールデンのように昔の人たちを思い出してしまって笑いがこみあげてくる。
一体この懐かしさの正体は一体なんなんだ。

人の記憶には匂いやその時々の暑さ、湿気など五感を刺激することでより刻名に記憶すると言う。

この曲でも匂いや季節が登場し、なんとなくそのキーワードが記憶とリンクして懐かしさを感じさせている。

登場人物二人で離れる切なさと妙な懐かしさ。

この曲は別れに対する自己肯定である。
そう、前に進むには自分を肯定するしかない。別れることで自分を責めたところで前へは進めるわけでもない。

だからこの懐かしさの正体って実は自己肯定していく様を思い出すからこそなのではと。

そしてそうやって人間は成長していくワケで絶望から立ち直ったり、仲よかった人たちは消えて言ったけどそうやって大人になっていくワケで人生は葛藤との戦いなのである。

そしてその葛藤の中で自己肯定していくことで強くなっていくわけで、強くなったからこそその思い出に対して懐かしいに置き換わるわけである。

だから自己肯定の瞬間を思い出させてくれるからこのバンドの音楽を聞いていて懐かしさを感じるのである。ある意味では人間賛歌と言ってもいい。

だからあの頃に戻りたいんじゃなくて笑い飛ばせる今がいい。なんてそう思わせてくれたバンドだと思います。はい。

それともう一つ懐かしさを感じさせるのはこのバンドのバランス感覚のちょうどよさなんだと思う。

実力のあるバンドメンバーに破天荒な前髪パッツンボブボーカル。
このボーカリストの和泉のような気持ちが前にくるボーカリストって貴重な存在だ。ヴィジュアル系あるあるのようなオットセイみたいな歌い方じゃなくて自分自身の気持ちで自分自身の歌い方で歌える人間。

そんな人間の生々しく葛藤の中にある音楽もガッチリバンドにハマっていて、これぞバンドと思わせてくれる。

多分、年齢問わずいいと言われるようなバンドなので、おじいちゃん、おばあちゃんにも胸はってお勧めできるバンドじゃないかと。

それでは。

田渕竜也のTwitter

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