「ゆとり」あるいは「ロココ」という優雅さの損失
ちょうど僕はゆとり世代にあたるわけである。
忌まわしいともされた世代でもあり大人たちはノーカンにしようと地中深くに蓋をしたそんな「ゆとり」という言葉とともに僕は大人へと成長していったたぐいだ。だからある種の差別の受け手的な意識の中、この「ゆとり世代」はティーン時代をすごしてきたかと思う。
何かに関して「まっゆとり世代だからな」みたいなドラクエの村人みたいに何度も同じセリフを聞かされてきたかと。
ゆとりとはなにかと多分知らない人なんていないと思うけど底抜けの世間知らずと言いますかそんな人たちのために一応補足しておこう。
もともとこの国って国家経済をもっと成長させるために教育をガッチガチに詰め込んで効率のいい労働者を作ることが目的だった。今ある就職して適当に家族作って子供ができてなんていうサザエさん的家族像なんかも効率のいい労働人間なワケです。
だからとにかく働いて賃金を稼いでモノを買って消費して資本を回していくこと。こうやってメビウスの輪のようにずっとグルグルしていればなんか知らないけど経済は発展しますよと考えたのはアダム・スミスっていう人なのでここは覚えておこう。少し賢くなったような気がしますよ。
ただ、この流れにも限界があるようで消費社会を進めていく上で消費物が全て行き届いてしまうと今度は消費物を捨ててもらわないといけなくる。捨てて買って捨てて買っての流れが必要になってくる。
だから今の家電製品って別に必要でもない機能が満載なわけである。そんなわけで家電製品自体が変わるわけではないから実は僕らの生活っておそらくだけど平成以降、劇的な変化ってないと思う。
そうなっていくと何度も回っていたメビウスの輪もだんだんと老朽化してぶっ壊れてしまうわけで、経済っていうものはある一定の生活水準まで行くともう発展はし得なくなってしまう。
国の経済成長が徐々に右下へとカーブしていくことで「これ以上の経済の発展と生活の発展ってなくない?」ということになった。そこで「もっと人生にゆとりをもとう」という話が出てくるわけである。
まぁ、もう生活水準は高いしそれなりに仕事もあるしでこれからは心の余裕を持って人生を楽しもうと言ったところだ。これがゆとりというものの本質だろうと思う。
考えてみればいつまでたってもテクノロジーは進歩しても車は空を飛べそうにないし、どこでもドアがあるわけでもない上、ヒューマノイド型のアンドロイドすらこの令和の時代になっても完成しきれないわけだから、おそらく僕らの生活レベルでの進歩とやらだいぶ頭打ちなのだろう。
進化したのはみんなスマホを握って人の主張に対してイライラするようになったぐらいだ。結局、ゆとりがなくなってしまったような気もする。
思い出すとこのゆとり世代と言われた年代のコンテンツもなんとなくなかったことにしようとしていると思うんですよ。
ネオヴィジュアル系なんて言葉を覚えていますか?今時こんな言葉を使おうとするのは僕かCureの編集部ぐらいですよ。だけどそのコンテンツのビームは確かに強く受けていたのも事実だし、それと表裏一体的だった青春パンクも同じだし、ベース吉本ブームも同じだ。
やっぱりなんとなくスッポリこれらがあったことがまるで月のクレーターのようにへっこんでいるのだ。
多分だけど今の歌い手ブームみたいなものもこんな感じにスッポリ抜けてしまうのだろうと思う。世の中がコロナという忌まわしき時代だから。大人としてはこんな時代はなかったことにしたいし忘れてしまいたい。だからなかったことにするのだ。
そんなわけで遅くなったけどあの頃をもう一度思い出してみようというのが今回のお題だ。
ORANGE RANGE – ビバ★ロック
ナルト、ブリーチ、ワンピース。まさにゆとり世代を代表する漫画タイトルたちだけど、この頃ぐらいからタイアップ音楽が結構若いバンドが担当するようになったかと思う。
とくにナルトとブリーチに関してはアジカンとかその辺のロキノンっぽいバンドがオープニングを担当していたりしてどうもそのあたりのバンドに対する特別な感情的な何かゆとり世代にはあるかと思う。
ORANGE RANGE。00年代に一時代を築き上げたといってもいいし、ミクスチャーロックでトップに立ったと考えればめちゃくちゃに快挙だ。
たしかこのビバロックがナルトのオープニングなったあたりからORANGE RANGEがスマッシュヒットを打つようになったように記憶しているけどどうでしょうか?間違っていますか?
しかし彼らがトップだった音楽シーンってあまり語られることなく、消し飛ばされている。
盗作の騒動が結構長引いたのがあったからかもだけどね。
ただ、やっぱりミクスチャーの金字塔としてもそうだし、バンドとしてもここまでのスターダムを一気に駆け抜けたのって以降みていないなって思います。
175R-HAPPYLIFE
青春パンクブームっていうのがあった。
モラトリアムの隔離された監獄のような学生生活の中での思春期の恋や友情を歌っていたバンドが多かったと覚えている。
そのブームを大きく盛り上げたのがこの175Rだったと思う。
上記とは矛盾するかと思うけど175Rは厳密に言えば青春パンクではなかったように思える。
Happy lifeなんかは友人同士の日常というかそんな感じ。まぁ友情というポイントを青春と位置づけられるなら青春パンクでもいいと思うけどね。
どっちやねんと思われますが、ここではとりあえず友情派青春パンクとして取り扱います。
そんな青春パンクってある時、まるで急に恐竜が消えてしまったように消えた。
大人になるとやっぱり純情とか友情がなんとなく気恥ずかしいキーワードになってきますからね。
多分だけどこれに胸を打つ年齢が終わってしまったんだろうなと。
大塚愛
なんだったんでしょうね、大塚愛って。今にしてみればいきなり現れていきなりバッとスターダムに駆け上がった人だったなと記憶している。
まぁこれほどデビューとともに謎にアンチがついた人っていうのもなかなかに珍しいことでもある。
自分の記憶を辿るとどうやら発端はヤフーの音楽コーナーにあった書き込み欄だったかと。あの辺りからどうやらブリッコ売りが気に食わないと炎上していったそうだ。
なんもしてないのに燃えていくっていうのもかわいそうだなって思うと同時になるほど女性に嫌われるとこうなるのかっていうのもわかる。
ある意味では炎上と誹謗中傷の先駆け的でもあるわけで大塚愛という存在は偉大である。
ケツメイシ「夏の思い出」
ゆとり以前までは夏といばサザン、TUBE、松崎しげるとなんとなく黒いようなアロハな暑ぐるしいイメージがあった。
しかしゆとり時代になるとそのあたりのイメージがすっ飛ばされてリップスライムやポルノグラフィティ、そしてケツメイシなどと随分と涼しげな冷涼のあるイメージに置き換わった。その代表曲としてあげるならこの「夏の思い出」だろう。多分ゆとり世代と夏にカラオケに行けば必ずこの曲が入るほどのスタンダード。そのあたりも注目してもらえればなーと思います。
ただこのあたりから「夏の曲」っていう音楽も消えたなーって思います。
NANA starring MIKA NAKASHIMA
ゆとり世代としては一番なかったことにしたいブーム。それはNANAだ。あの漫画に出てくるキャラたちの貞操のなさとその先にある展開がもうなんだかとにかく動物的性衝動で動くストーリーにまぁ疲れてしまったのは一応それなりに漫画を読んだ僕の意見である。
とにかくこのブームはなかったことにしたいと思う中でも実写映画版というのも忘れては行けない。映画自体はひどいそれだけの話なんだけど、この中島みかが歌うグラマラススカイは名曲だ。
あとアニメ版の土屋アンナのRoseという曲があるんだけどこちらもかなりかっこよくて好きなんだけどな。よく思い返すと俺、結構NANA好きだったわ。
といった具合で今回は消された世代の話。
そういばヨーロッパの美術のブームにロココってあったんだけどこれって随分となかったことにされていたんですよ。あまりにも無思想でなんも考えていない能天気でバカっぽい美術ブームだったから。
その頃の文献によれば「優雅」という世界観がどうやらロココが批判される要因だったらしい。
まぁ「パンがなければケーキを食べればいいじゃない」で有名なマリーアントワネットなんかはロココ時代に生きてロココに生きた人の筆頭だろうと思う。田舎の田園を歩いたり、パーティなんかをやったりしてそんな貴族の生活。
確かにこの人って「優雅」というものの擬人的な人物だろうと思う。
だからロココって後に貧乏な一般市民と豪遊する上級国民みたいな構図を作り上げてしまっていた結果、ロココという美術ブームがなかったことになっている理由の一つだろうと思う。
そんなわけでブーシェやヴァトー達ロココ時代の美術家って現代でもあまり評価はされていない。
そう考えるとかわいそうだと思いません?没落したら殺されてしまうし、ずっと悪口言われる上級国民って。
下級の市民なんて別に働いてそれなりに賃金があればいいワケであってよっぽどじゃない限り不条理に殺されることはない。
しかもフランス革命の結果どうなったかはWikipediaでも調べてみればわかるだろうと思うけど、恐怖政治なんかが始まってフランス中がめちゃくちゃになったわけだしね。
だからロココという時代の「優雅さ」がなかったことにされているのって結構な損失であったと思う。
じゃあ僕らのなかったことになっている「ゆとり世代」はどうだろうか?やっぱり「ゆとり」ということもなかったことにするのは損失だろうと思う。
まぁ、残したからってどうとかいう話ではないんだけど、そんな時代を僕は生きましたよっていうそんな与太話である。
ある意味、ロココに生きた世代といってもいいかもしれない。
それでは