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ボーカル見本市。The First takeに対するモヤッとボール。

文:田渕竜也


もともとベースギターでバンドをやっていた僕だったからある程度は楽器陣の気持ちはわかりますよ。

バッチバチにスラップしたら怒られ、見せ場を作ろうとラルクのTETSUのような動くフレーズのベースをやろうにもヘッタクソなボーカルがリズムをうまく取れないせいで全部ルートに変更させられたり…。たとえばジェバンニばりに一晩で譜面をおこして、スタジオに持っていっても結局、全てはボーカル次第になってしまって何もかもがパーになったりして…。コードまで書きかえられたりしまいには作ってきたメロディまで口を出される始末。

考えてみれば僕ら楽器陣ってバンドを組むたびにそんな辛酸を嘗めさせられることになるわけである。

確かに、ボーカルというのは雛形だ。一番先頭に立っているわけで、ディズニーにおけるミッキーマウスだ。
なので僕らは楽器陣はボーカルラインを補助をするサブ的脇役であってグーフィーなのだろう。

しかし、やっぱり脇役とは言え田口トモロヲ、松重豊みたいに名バイプレイヤーとしてここ一番で輝きたいわけですよ。
だってバンドってアイドルじゃないじゃないですか。そりゃアイドルという括りなら引っ込んでますよ。だからやっぱり名バイプレイヤーを光らす事のできる椎名林檎の楽曲だったり、aikoの楽曲ってすごいわけでこの人たちの楽曲はこのバイプレイヤーたち無しには完全に完成しきれないかと思う。

しかしそんな楽器演奏って結局のところ、やっていることが専門的なわけで楽器を知らない人からしたら何をやっているかわからないのが現実だ。
だから楽器の演奏なんかよりもJKダンスのほうがバズるわけで、踊りのほうが楽器の演奏に比べてはるかに「可愛らしさ」という部分では大差をつけられるわけである。

要はバカを騙せない。結局のところ映像を見ている人って性的リビドーな部分が大きい。だから楽器の演奏って全然性的になりにくいからネット出身のプレイヤーが極端に少ないんじゃないかと。

ここまでいうのも言い過ぎかもだけど音楽を知らない素人からすれば楽器をどんなに頑張ってもそれは細長いものをこね繰り返しているようにしか見えない。
僕ら楽器演奏陣と素人の見る世界が違うっていうことなのだ。
だから僕ら楽器陣からすればジェントのすごいタメとかリフに興奮するし、プログレの長すぎる前奏にワクワクするけど、これがかえって邪魔になる。だってそうでしょ。彼らは映像の顔と体を見にきているわけだから。

ああいった誰か単独の映像って案外、内容を見ていないもんである。だから胸を強調した女性の動画とかってあるじゃないですか。なんか変態ちっくなの。あんなのも一見、バカに見えるけどやっぱり映像を見てもらうということになるとこれをせざるを得ないところはあるんだろうと思う。
まぁ僕は大嫌いだし、そんなもんはただのポルノであって音楽とは関係ないから結局は消えていくんだろうと思いますけどね。

だからミッキーマウスになり得る歌い手のボーカリストをセンターに据えざるを得ないのだろう。

そんな歌い手第一主義であるJpopではさらにその様相が加速している。
youtubeを開いてこんなサムネイルを見かけたことはないだろうか?

まさに消費社会的と言いましょうか、ユニクロとかの商材写真にありそうなブランドイメージだな。この徹底したイメージ戦略は流石すぎると言える。

これが巷で話題の『The First take』というチャンネルだ。
大抵、トレンドに出てくるし、注目度は多分、今のJpop界では一番なんじゃないかな。
これに対してなんとなくの嫌悪があるんですよね。いや別に好きな人はそれで消費してもらったらいいし、僕の嫌悪感をぶつけようとは思わない。だけどまぁここから先は毒まみれの沼地となっているのでまぁ好きな人は黙ってバックブラウザだ。
こんなインターネット最下層のアングラサイトでイライラするのは人生の無駄遣いだぞ。ここまで忠告したからな。

じゃあここからなんとなくのモヤモヤについて考えて行こうと思います。

モヤッとポイント1:サムネイルが気取りすぎ

まぁ音楽をやっていた人間が言うもんではないにせよ、やっぱり目に飛び込んでくるのはこのサムネイルだ。
なんか徹底的に管理・監督されたアートワーク。

視認による情報って約九割型脳みそを支配されているわけで、いわゆるブランドって言うのはそうやって視認による情報処理によって認知されるわけだからブランドってアートワークが徹底されている。

みじかなところで言えば無印良品。

あれなんかは無印良品というロゴを押し出すことによって服のデザインとか家電のデザインに力を入れなくてもそのブランドを消費している。
だから僕らってみんなブランドというアートワークを消費しているんですよね。アディダスのジャージだってナイキのスニーカーにしても同じこと。
これが20世紀型の資本主義と言いますか僕らはそんな資本主義から逃れられない理由でもあるんですが、ここからは長ったらしいアカデミックな話になるので割愛させてもらう。

要はそれだけアートワークって重要なんですよーっていう話。

とまぁこの気取った海外のファッション誌みたいなアートワークもブランドなわけでこの視認によって「あっFirst takeだ」って認識になる。

僕個人としてはこの動画自体は良くできているし「やっぱりプロの仕事は違いますねぇ」と感じる次第でもあります。

いやほんとにこのチャンネルのマーケティングはすごいですよ。人選から何から何まで徹底的にツイッター呟き層をうまくついている。

映像としてはなんか歌う前のオフショット的ななんというか情熱大陸的な入り方が無性に恥ずかしく見えるし、嘘っぽく見えてしまうんですよ。なんかあざとすぎるぐらいのドキュメント的な映像のレイアウトが。

こういった気取った奇妙な舞台やあざとすぎるぐらいの歌のアナログ感の演出がなんかかえって音楽という熱さが見えてこないんですよ。これだったらりんご音楽祭2018のクリトリック・リスの舞台のほうが感動するし熱い。

結局このなんかあざとさがモヤッとしてしまうのだろうな。

モヤッとポイント2:結局はソニー管轄

そう言えばすっかり廃れてしまったけどグーズハウスっていうチャンネルがありましたよね。

みなさん覚えていますか?そうあの大学二回生みたいな表面の笑顔だけが塗り固められたあの薄ら寒い音楽映像。
あれもそう言えばソニー主催だったんですよね。

よく考えればFirst takeはその反省がうまく活かせている。歌手選びの人選も陽キャ向けというよりもどちらかと言えば、教室の隅っこで邪眼な人層というか「初カキコども」とかいって「虐殺はノーサンキュー」みたいなネットボリューム層をうまく分析したんだろうなって思う。Lisaとかわざわざyamaとか選ぶのも多分、そのあたりの市場を見込んだところじゃないかと。

モヤッとポイント3:アートワークとかCOLORSやんけ

COLORSっていうyoutubeチャンネルをご存知だろうか?

ざっくりいうと、この動画の目的としては今の飽和状態になっている音楽シーンの中で新しいサウンドと新しいアーティストを紹介してミニマルでカラフルなステージでパフォーマンスをする動画のことである。これはかなりの記号的アートワークで世界的ヒットしている動画である。

別に真似が悪いっていう話ではないけど、コンセプトは新しいサウンドという部分以外は結構被っている。ある意味皮肉なところですよね。結局、First takeでヒットしている音楽って別に真新しいサウンドでもなければなんでもないというところが。

とまぁいろいろとモヤッとしているところをつらつら書かせていただいたけどどうだろうか?

昨年大ヒットしたDish//にしても優里にしてももともとはバンドの人だ。これが一番もやっとするところで、なんていうかバンドの音楽ってバンドメンバーにしかできないものってあるじゃないですか。

なんかこういったバンドボーカリストが出てきて一人だけスマッシュヒットしてしまう形がなんとも「なんか情けねぇな」って思ってしまうんですよね。しかも無駄にバラードアレンジみたいな感じにして。こんなんされたらまぁ楽器陣ってなんもできないですよ。
なんでしょうか?この変な感じ。これが一番のもやっとじゃないですかね。

というわけでFirst takeに対するモヤッとを吐き出させていただきました。

それでは

田渕竜也のTwitter

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