『MS-05 ザクI』を解説

文:なかむら ひろし

 明けましておめでとうございます。今年もチマチマとMS解説を続けていこうと思う。今回からはしばらくジオン公国のMSが続くが、『鉄血』シリーズも準備中。『ウルズハント』がクソゲー呼ばわりされているのが気がかりだが、新しい機体がキット化されることを望むばかり。

 今回解説するMSは『MS-05 ザクI』、TV版『機動戦士ガンダム』及び劇場版『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』などに登場するMS史上初の量産機。主なパイロットはガデム、トップなど。

機体解説

 独立を目論むジオン公国はいずれ地球連邦と武力衝突が起こることを予見していた。しかし、連邦との国力差は歴然としており、勝てる可能性は限りなくゼロに近かったのである。そんな中、T.Y.ミノフスキー博士がミノフスキー粒子を蓄積するシステムを開発する。核融合炉の出力調整のために開発された技術であったが、蓄積したミノフスキー粒子を散布することで、広範囲に電波障害を起こし、レーダーや誘導兵器を無効化することができることが判明。これを利用することで、第二次世界大戦以前の有視界戦闘へ変化し、連邦の戦力を無力化できると考えた。

 ジオン公国はミノフスキー粒子散布下における戦闘に最適化した新しい機動兵器の開発を進める。そして、次世代の主力兵器として採用されたのがジオニック社が開発したモビル・スーツである。“MS-01 クラブマン”が完成すると、そこから更なる改良が加えられ、遂に戦闘に耐え得る“MS-04 プロトタイプ・ザク”が完成する。そして、MS史上初の量産機“MS-05 ザク”が誕生した。

 最初に量産されたモデルは“MS-05A”と呼ばれ、教導機動大隊に編成され、パイロットの育成やMSを用いた戦術の確立に利用され、大規模な軍事演習も行われた。そして、そこから洗い出された問題点を改良し、本格的に量産されたのが、“MS-05B”である。一般的に“ザクI”とか“旧ザク”と呼ばれるのはこのモデルで、劇中でガデム大尉が搭乗したのもこのモデルである。

 本機が量産される間にも更なる改良が加えられていき、“MS-06 ザクII”が開発されると、本機の量産は中止され、開戦前には主力量産機の座を譲っている。しかし、開戦当初はMS-06の数も少なく、本機は全て実戦投入されている。MS-06の配備が進むと、次第に第一線から退き、補給作業などの後方支援に回されたが、一部のベテランパイロットの中には本機に乗り続けた者もいた。

○何故ベテランパイロットは旧ザクに乗り続けたのか?

 「たまにベテランパイロットがゲルググなどの新型MSに乗った方が良かったのでは?という話を聞くが、これには理由がある。シミュレーションゲームなどではそれで良いのかもしれないが、実際にはそう簡単な話ではない。長年、軽自動車に乗っていた人がいきなりフェラーリに乗る換えるのを想像していただければ良い。性能は低くても乗り慣れた機体の方が性能を最大限に引き出すことができ、腕次第で性能差を覆すことさえできる。特にジオン公国のMS開発はジオニック社やツィマット社といった複数の企業による競合で行われており、企業によって操縦系統がバラバラなので、より機種転換に時間がかかるのである。そう考えると、短期間に様々な機体に乗り換えたシャアやジェリドの優秀さが窺えるのではないだろうか。」

スペック
頭頂高:17.5m
本体重量:50.3t
全備重量:65.5t
ジェネレーター出力:899kw
スラスター推力:40,700kg
装甲素材:超硬スチール合金

初めて制式採用されたMSということもあり、後発のMSと比較すると、その性能の低さが目立ってしまうが、機体の完成度は非常に高く、後のMSにも採用される様々な技術が実用化された。そして、開戦当初は鬼神の如き強さを見せ、連邦軍艦隊に大打撃を与えた。

 ここで本機に実装された新技術をいくつか見ていくことにしよう。

ミノフスキー・イヨネスコ型熱核反応炉
MSの動力源で、ジェネレーターとも呼ばれる部分。宇宙世紀におけるエネルギー供給の主流はヘリウム3と重水素を用いた核融合発電だったのだが、核融合により発生した高熱で湯を沸かし、その水蒸気でタービンを回して発電するという基本的な構造は旧世紀の発電と変わらなかった。また、核融合を起こすには炉心を高温で保つ必要があり、放射線も発生することもあって、大規模な施設が必要であった。しかし、ミノフスキー粒子の発見により、技術革新が起こる。ミノフスキー粒子に電荷を加えると、立方格子上に整列し、“Iフィールド”と呼ばれる力場を形成する。Iフィールドは核融合の高熱と放射線を閉じ込め、それを直接電力に変換する作用を持っていた。このミノフスキー粒子を利用して、MSにも収まる小型の核融合炉、“ミノフスキー・イヨネスコ型熱核反応炉”が実用化された。

流体内パルスシステム
関節の駆動システム。油圧駆動方式の発展型と言えるシステム。熱核反応炉で発生したエネルギーをパルスコンバータへ送り、パルス状の圧力に変換、動力パイプ内に充填した流体に圧力を加え、数千本の超微細管を通じて、各関節のロータリー・シリンダーに伝達し、関節を駆動させる。反応速度に優れ、消費電力も少ない上、精密な動作も可能という優秀な駆動システム。

AMBAC(Active Mass Balance Auto Control)
能動的質量移動による姿勢制御。宇宙戦闘機は姿勢制御の度にスラスターを吹かす必要があったが、AMBACは腕や脚を振り回した時の反作用によって、機体を旋回することができるため、姿勢制御にプロペラントを使用せずに済む。それにより、デッドウェイトになると思われた手足が稼働時間や運動性の向上に貢献することとなった。

AMC(Active Mission Control)
MSの操縦を補助する機能。基本動作がOSにプログラミングされており、MSの複雑な動きもレバーやフットペダルでの操作で可能となった。例えば、右に水平移動しながら、マシンガンを撃つという動作なら、移動する方向や速度、武装の選択や照準、発射は手動で行うが、機体のバランス調整や武器の構え方などは自動で最適化される。FPSのゲームをやっているような感覚で操縦できると言えば、分かりやすいだろうか。

超硬スチール合金
ジオン公国のMSの装甲に広く使用された素材。戦後は新素材に取って代わられてしまうが、安価で加工が容易という特性は国力の乏しいジオン公国にとって、大きなメリットであった。

モノアイ
ジオン系MSの象徴とも言える外部認識機構。光学レンズを用いたカメラ、レーザーや赤外線などを用いたセンサー群の複合ユニット。一部の人間からはジオンを彷彿とさせることから嫌われるが、戦後も長年使われることになる優秀な技術である。

熱核ロケットエンジン
プロペラントを熱核反応炉に送り、そのエネルギーによって加熱、それをノズルから噴射することで推力を得る。基本的には宇宙用。戦後も長らく使われる息の長い技術である。

基本武装

105mmザク・マシンガン

ストックがなく、銃身の右側に装着するパン・マガジンが特徴的な初期型のザク・マシンガン。開戦時には発展型が完成しているため、主力武器ではなくなったが、物資不足から使用されるケースもあった。

120mmザク・マシンガン

105mmザク・マシンガンの発展型。マガジンが上部へ移設されたことで効率的なリロードが可能になった他、火力も向上している。MS-06の主兵装ではあるが、本機をはじめ、様々なMSによって使用された。

280mmザク・バズーカ

対艦用バズーカ。弾倉は存在せず、先込め式であるため、扱いづらいところはあるが、火力は高い。その分、発射時の反動が凄まじく、そのまま使用すると、腕を持っていかれてしまうため、肩部のバズーカ・ラックを使用する。

ヒート・ホーク

初期型のヒート・ホーク。刃先をプラズマ化し、溶断する作業用機器を軍事転用した鉈のような兵装。本来は対MS白兵戦用ではなく、射撃兵装が使用できない場面での対艦および対戦闘機への近接攻撃、宇宙要塞や遮蔽物の破壊などが想定されていた。数回使用すると刃こぼれが起こるため、その都度交換が必要になる。

スパイク・シールド

打突用のスパイクが付いた携行型シールド。MS-06ではC型以降、右肩にシールド、左肩のアーマーにスパイクが固定装備されたことで配備数は少ない。シーマ艦隊のMS-14Fが物資不足から装備していたことで有名。

シュツルム・ファウスト

パンツァー・ファウストをMS大にした使い捨てのロケット・ランチャー。火力は絶大だが、追尾機能などはなく、移動目標を狙い撃つのは困難。本機以外にも多くの機体に使用されている。

ガス弾発射器
弾頭に“GGガス”という猛毒ガスが込められたロケット弾を撃ち出す2連装ロケット・ランチャー。“コロニー落とし”に使用するためのスペース・コロニーを奪取するため、コロニー内に撃ち込み、そこにいた人間を皆殺しにした。南極条約締結により使用が禁じられる。

○ガデム大尉のショルダー・タックル
 「旧ザクと言えば、テレビ版『機動戦士ガンダム』の第3話『敵の補給艦を叩け』でのショルダー・タックルが最も有名だろう。この時、ガデムのザクが丸腰だったのは、既に第一線から退き、補給作業用となっていたからである。劇中でもしっかり補給作業を行っている。そして、部下や母艦を失った彼はガンダムに特攻を仕掛け、その操縦技術の高さを見せつけるも返り討ちに遭ってしまう。視聴者や一度戦っているシャアは無謀な戦いだと分かるのだが、想像してみて欲しい。車同士が思い切り正面衝突したのに車はほぼ無傷、運転手もピンピンしているようなものである。シャアだって、初見の時は“化け物か”と驚いていたように、あれで相当なダメージを与えたと思うのが普通なのである。」

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