『MS-06F ザクII F型』を解説
今回解説するMSは『MS-06F ザクII F型』、TV版及び劇場版『機動戦士ガンダム』をはじめ、様々な作品に登場する宇宙世紀において最も量産されたMS。映像作品における主なパイロットはデニム、ジーン、スレンダーなどではあるが、ジオン公国のMSパイロットはほぼ全員搭乗したことがあると言っても過言ではない。
機体解説
ミノフスキー粒子散布下における新しい機動兵器として、“MS-05”を完成させたジオン公国は、その有用性を確信し、MSを主力兵器とすることを決定する。そして、局地戦用機に関しては、ベースとなる機体のパーツを換装したり、プログラムを変更することで対応していくという指針も打ち出される。
しかし、MS-05は、その完成度の高さ故に拡張性に乏しく、ベース機としての運用は困難を極めた。そこで、MS-05に更なる改良を加えていくことになる。
まず、MS-05の問題点として挙がったのは、機体内部に全く余裕がなく、構造が複雑化してしまったため、整備性が劣悪だったということである。加えて、機体の冷却にも課題を抱えており、稼動時間の短さも問題視されていた。
そこで、ジオニック社は思い切った改修を行う。動力パイプの一部を機体外部へ露出させたのである。勿論、駆動を司る重要な機関を露出させるデメリットはあるわけだが、それ以上に得られるメリットは大きいと判断された。
まず、動力パイプを露出することで、機体内部に余裕ができ、パーツ交換が可能になった。これにより、新規パーツによる性能向上や局地戦仕様への改修など、拡張性や整備性という課題をクリアしたのである。
さらに動力パイプの口径を大きくすることができ、駆動効率が上昇、運動性の向上にも繋がったのである。メリットはそれだけではない。動力パイプに熱伝導機能を追加することも可能となり、冷媒に熱を吸収させ、プロペラントと一緒に放出するという従来の方式のほかに、熱を吸収した冷媒を温度の低い箇所に移すという新しい方式も採用され、機体の冷却に関しても改善されている。
こうして、“MS-06A 先行量産型ザクII”が完成する。ジェネレーターも新型に換装され、機体性能は大きく向上、評価も高かったのだが、量産は少数に留まった。ジオン公国の諜報機関が「連邦軍がMSに対抗する新兵器を開発している」という情報をキャッチしたため、武装の強化を急がせたからである。既に完成していたA型のほとんどは、後に開発される機体に改修されたため、幻の機体となってしまったのである。
そして、次に完成したのが“MS-06C 前期生産型ザクII”である。左肩にスパイク付きのアーマー、右肩にL字型のシールドを装備し、一般的に“ザクII”と呼ばれる機体の原型はこの段階で誕生している。特筆すべきは戦術核の運用を想定しているという点である。そのため、機体には放射線を遮断するための対核装備が施されている。このC型は“ルウム戦役”までの主力として活躍した。
ただ、対核装備が施されたことで、本体重量は72tにも及び、機動性や継続戦闘能力に難があったことから、火力よりも機動力を重視したバリエーション機として、“MS-06F ザクII”が開発される。伝説のMSの誕生である。
○動力パイプの露出は失敗だったのか?
「ジオン公国軍が地球侵攻を開始し、地上戦が始まると、露出させた動力パイプの損傷が多発した。そのため、後に開発されるMSの動力パイプは再び内蔵されていくことになる。そう聞くと、動力パイプの露出は失敗だったと思われるかもしれないが、MS-06は空間戦闘を想定した機動兵器である。宇宙ではマッハを超える速度で移動するため、動力パイプを狙って撃てるようなものではない。また、仮想敵は宇宙艦艇であるため、攻撃を1発でも受ければアウトなので、動力パイプを露出させていようが、露出させていまいが、あまり関係ないのである。ちなみに後のMSが動力パイプを内蔵できたのは、技術の発展により、様々なパーツを小型化、高性能化できたからである。」
スペック
頭頂高:17.5m
本体重量:56.2t
全備重量:74.5t
ジェネレーター出力:976kw
スラスター推力:43,300kg
装甲素材:超硬スチール合金
対核装備をオミットしたことで軽量化、機動性や継続戦闘能力が向上。さらに改良型ジェネレーターに換装、プロペラントの積載量を増加するなど、全体的なアップグレードが行われている。
ルウム戦役までは少数の生産に留まっており、実戦にはほとんど参加していない。南極条約締結後はC型の生産が打ち切られ、主力兵器として本格的な量産が始まる。総生産数は3,000機以上と言われ、発展機やバリエーション機も多数生産されるベストセラー機となった。
基本武装
120mmザク・マシンガン
本機の主兵装で装弾数は145発。セミオートとフルオートに切り替えが可能。徹甲弾、榴弾、徹甲榴弾、成形炸薬弾など弾種も豊富。本機以外のMSにも広く使用されており、発展型も開発されている。
280mザク・バズーカ
対艦用の無反動砲。ルナ・チタニウム合金の装甲を貫くほどの火力を有する。スコープも追加され、モノアイと連動させることで、命中精度が向上。装弾数は単発もしくは5発とされる。
ヒート・ホーク
刃先を加熱し、プラズマ化させることで、目標物を溶断する。作業用ツールを軍事転用したもので、本格的な兵装として完成したのは開戦後である。
シュツルム・ファウスト
使い捨てのロケット・ランチャー。命中精度に難はあったものの、火力はザク・バズーカ以上で、一年戦争初期から使用された。本機以外のMSにも広く使用されている。
○やられ役となってしまった名機
「ザクと言えば、やられ役というイメージが非常に強いと思う。それもそのはず、劇中では連邦軍のMSが既に完成しており、その仮想敵はザクである。ザクを倒すために作られたMSが登場するわけだから、やられ役となってしまうのは当然と言える。また、本編をご覧頂くと分かると思うが、シャア・アズナブル隊はドレンやデニムを除く、ほとんどが新兵である。一年戦争緒戦、MSの活躍で連戦連勝のジオン公国であったが、被害が全くなかったわけではなく、多くの熟練兵を失ってしまっているのである。連邦軍のMSが登場する前の戦いも映像化されているので、そちらをご覧頂くと、MS-06の強さがわかると思う。」