『MS-06S 指揮官用ザクII』を解説
今回解説するMSは、TV版『機動戦士ガンダム』及び劇場版『機動戦士ガンダムI』に登場するジオン公国軍の主力量産機MS-06のアッパー・バージョン。シャア・アズナブルが搭乗した機体が最も有名だが、他にも黒い三連星やジョニー・ライデンといった名だたるエース・パイロットが搭乗したとされる。
機体解説
ジオニック社はMS-06のバリエーション機として、予てより熟練パイロットたちから要望のあった高性能機の開発に着手する。ただ、開戦を間近に控えたジオン公国からF型の生産ラインを流用できる範囲での改修という制限を受けてしまう。そこで、A型をテスト・ベッドに機体の安全性を確保した上で、どこまでスラスター推力やアクチュエーター出力を向上できるか、徹底的に耐久試験を繰り返し、熟練パイロットの操縦データをフィードバックすることで、F型をベースに完成したのがMS-06Sである。
本機には新型のジェネレーターが搭載され、出力こそF型と同等ではあるものの、連続稼働時間は約20%向上している。さらにMIP社の技術提供を受けて、改良型スラスターに換装したことで、推力も約30%向上している。
また、一部の熟練パイロットの操縦データから、機体の加速にメイン・スラスターだけでなく、姿勢制御用スラスターも使用していることから、サブ・スラスターの増設も行われている。これにより、運動性だけでなく、機動性の向上にも成功している。
本機は指揮官クラスのパイロットに配備することを前提として開発されたため、頭部にマルチ・ブレード・アンテナが標準装備されている。かつては指揮官機を表す角飾りでしかなかったが、アンテナ機能を付与することで、通信能力や索敵能力が強化された。
一年戦争緒戦で大きな戦果を挙げたエース・パイロットに褒章として与えられ、各パイロットが独自にカスタマイズを行ったり、パーソナル・カラーに塗装したこともあり、生産数は100機ほどと多くはないが、ひとつとして同じ機体はないと言っても過言ではないほど、バリエーションは豊富である。
○通常の3倍の速さとは?
「劇中でシャア少佐が搭乗するザクが通常のザクの3倍の速度でホワイトベースに接近するという描写があり、シャア専用機は通常の3倍というイメージが染みついている。推力がF型よりも約30%向上しているとはいえ、3倍の速度を出すことは可能なのだろうかという疑問も同時に付きまとう。
ひとつの考察として、一般機は隕石やデブリ、敵機を警戒し、安全運転しているのに対して、操縦技術の高いシャア少佐はそれ以上の速度を出していたと考えられる。また、宇宙空間ではプロペラントを消費して、加速を続ける限り、いくらでも速度を上げることも可能である。
もうひとつの考察としては、実際の速度ではなく、コンピューターが割り出したある地点に到着するまでの予測時間の話とも考えられる。仮に同じ性能だとしても、平均速度や通ったルートの違いなどから、到着するまでの時間に3倍の差がついても不思議な話ではない。しかも、レーダーで捕捉できるほどの近距離なので、秒単位の話である。
いずれにせよ、シャア少佐の操縦技術がいかに高いものかという描写としては非常にインパクトのある表現だったと言える。」
スペック
頭頂高:17.5m
本体重量:56.2t
全備重量:74.5t
ジェネレーター出力:976kw
スラスター推力:51,600kg
装甲素材:超硬スチール合金
各ユニットの設計や素材を見直したり、一部オート機能をオミットすることで軽量化を行い、本体重量及び全備重量はF型と同等となったが、操縦性が悪くなったり、プロペラントの増設も行われていないため、継続戦闘能力は低下してしまった。一般的なパイロットには乗りこなすことが難しい機体ではあったが、エース・パイロットはマニュアル操作による細かな操縦が可能になり、無駄なプロペラントの消費も行わないため、本機の評判はすこぶる良かった。そして、本機の運用データは後のMS-06Rシリーズ開発に活かされることになる。
基本武装
120mmザク・マシンガン
兵装はF型と同様のものを使用する。ルナ・チタニウムの装甲には効果がないというイメージが強いと思うが、何発も命中させることで致命傷を与えることは可能。
280mmザク・バズーカ
南極条約締結により、核弾頭の使用が禁止され、火力は低下したものの、対艦攻撃では猛威を振るった。後に火力を強化したジャイアント・バズが開発される。
ヒート・ホーク
開戦後に完成した改良型は誘電加熱と抵抗加熱を状況に合わせて自動で切り替える機能が追加されている。
○赤い機体は目立って良くないのでは?
「ジオン公国軍ではエース・パイロットが搭乗機をパーソナル・カラーで塗装することが許されていたため、シャア・アズナブルやジョニー・ライデンは機体を赤く塗装している。そこでよく聞かれるのが、警戒色である赤で塗装すると、戦場で目立ってしまい、良くないのではないかということである。
結論から言うと、宇宙や夜間なら通常カラーと視認性に大差はないということになる。勿論、白昼なら目立つのだが、暗闇の中だと、赤はそれほど目立つ色ではない。実際に夜間、赤い車や赤い服を着た人を見てもらえば分かると思う。
逆に目立つのが白や黄である。踏切や工事現場で黄が使われているのは、白昼であろうが、夜間であろうが、警戒色として機能するからである。ちなみに作業用ザクは黄で塗装されている。
また、ミノフスキー粒子が戦闘濃度になると、赤外線を反射・吸収する作用を持ち、それが可視光線にまで影響することで、赤が見えにくくなるという効果をもたらしたのだが、グリプス戦役以降は索敵能力も強化されたことで、意味を持たなくなったという資料も存在する。ただ、こちらは近年の資料では見かけないため、参考程度に考えてもらいたい。」