『MS-06J 陸戦型ザクII』を解説

文:なかむら ひろし

 今回解説するMSはMS-06の地上戦仕様で、TV版『機動戦士ガンダム』やOVA『機動戦士ガンダム MS IGLOO』シリーズなどに登場。劇中で名前を知ることができるパイロットにはアコース、コズン・グラハムらランバ・ラル隊やエルマー・スネルなどがいる。

機体解説

 MS-06Fは汎用性に富んだ機体で、空間戦をメインとしながら重力圏内でも運用可能であった。しかし、それはあくまでも運用できるというレベルに止まっており、地上戦に向いた機体とまでは言えなかった。そこで、ジオニック社はMS-06のバリエーション機として、地上戦仕様への改修を行った。

 まず、地上では必要のない宇宙用装備をオミットする。具体的には、宇宙線による被爆を防止するための対放射線液、コックピット内の酸素濃度を一定に保つための生命維持装置や姿勢制御用スラスターなどである。これにより、空間戦では使用できなくなったが、機体の軽量化やコストダウンに成功している。

 ジェネレーターは空冷式に変更され、モノアイも地上用に改修されたほか、インテークには防塵フィルターが施され、重力圏内で最も負荷のかかる脚部関節が強化されている。さらに宇宙用装備をオミットしたことで空いたスペースには対地センサーやウェポン・ラッチが設置された。

 こうして、MS-06Jは開戦前に完成していたが、地球への攻撃は月面からのマスドライバーによる爆撃やコロニー落としで十分だと考えていたため、少数が量産されただけであった。第一次降下作戦時はF型が主力で、本格的に大量投入されたのは第二次降下作戦からである。

○劇中に登場するザクは何型?

 「TV版放映時は単にザクという設定しかなく、MS-06という型式番号もザクIIという名称もなかった。当然、描き分けられているはずもない。外観的な特徴が付け加えられたのも後年の話なので、TV版に登場する機体がどのタイプなのか正確に区別するのは難しい。

 まず、イントロ部分で描かれているブリティッシュ作戦に投入されたザク。この時、F型はほとんど実戦投入されていないので、これはC型である。そして、それ以外の宇宙に登場するザクはすべてF型である。

 逆に地上で登場するザクのほとんどはJ型である。地球降下作戦で多数のF型が地上に降りてはいるのだが、そのほとんどがJ型に改修されている。ただ、F型が紛れている可能性を全く否定できるわけではない。

 ただ、ランバ・ラル隊のザクに関しては地上戦用の装備をしているし、ジャブロー降下作戦に投入されたザクはJ型を生産しているキャリフォルニア・ベースからの増援であるため、どちらもJ型で間違いないだろう。

 一方、難しいのがククルス・ドアンのザクである。オリジン版ではF型と設定されているが、あまりにも情報が少ない。個人的には、あの動きはJ型でなければ難しいという理由でJ型説を推したいところであるが、真偽は不明である。」

スペック
頭頂高:17.5m
本体重量:49.9t
全備重量:70.3t
ジェネレーター出力:976kw
スラスター推力:45,400kg
装甲素材:超硬スチール合金

 地上戦に適した改修や機体の軽量化による機動性や運動性の向上が相まって、地上におけるパフォーマンスはS型を超えるとされる。地球侵攻作戦時の連邦軍の主力は戦車や航空機であったこともあり、鬼神の如き強さを見せることになる。

 しかし、本機には致命的な欠陥があった。宇宙への移民が始まって80年も経とうとする現在、ジオンの技術者たちはコロニー生まれ、コロニー育ちで、一度も地球に降りたことがなかったのである。つまり、地球に降りたことのない人たちによって、現地でのテストも行われないまま、シミュレーターによる予想値のみで開発された機体なのである。実戦で予期せぬトラブルが頻発するのは当然の話であろう。

 第二次降下作戦でキャリフォルニア・ベースを制圧してから、地上におけるテストも可能となり、様々なバリエーション機が開発される。しかし、本来宇宙用として開発されたMS-06を改修するにも限界があり、地上戦用に再設計されたMS-07が開発されることになる。

基本武装

120mmザク・マシンガン

MS-06の主兵装は地上戦においても猛威を振るった。航空機は掠っただけでアウト、戦車も高い位置から装甲の薄い上部を狙われると一撃でアウトである。

280mmザク・バズーカ

高い火力と爆風による効果範囲の広さから、地上戦でも重宝された。弾速の遅さも空間戦に比べれば、重大なネックとはならない。

ヒート・ホーク

ビーム・サーベルと異なり、振りかぶって斬撃する必要があるため、地上戦の方が扱いやすかったと思われる。

シュツルム・ファウスト

こちらも地上戦の方が使い勝手が良く、空間戦よりも使用頻度が高い兵装である。

3連装ミサイル・ポッド

脚部に増設されたウェポン・ラッチに装備する補助兵装。そのため、F型には装備できない。ガンタンクの脚部を破壊する程度の火力を有する。

クラッカー

MS用手榴弾。6つの突起が爆散することで、広い効果範囲を持つが、対MS戦では直撃させないと致命傷には至らない。主に閃光による目眩ましや牽制として使用される。

175mmマゼラ・トップ砲
本機の配備が進み、不要となったり、ベース部分が破損したマゼラ・アタックの主砲を改修し、手持ち用の火器にしたもの。正式な兵装ではなく、現地改修された非公式的なリサイクル品である。

Sマイン
対人近接防御兵器。空中に打ち上げられた砲弾が爆発し、無数の鉄球が降り注ぐ。機体各部に設置されたマルチ・ランチャーから撃ち出される。

○地上に降りたスペース・ノイド

 「上流階級たちが頑なに出ようとしない地球。スペース・ノイドたちはどんな楽園なのかと想像したことだろう。しかし、実際に地球に降りた兵士たちは“本物の自然”に辟易することになる。スペース・コロニーという温室で生まれ育った者たちにとって、暑さや寒さ、天災とも無縁である。害虫や野生動物もいない。埃っぽい空気、森林の青臭さ、海岸の磯臭さに気分を悪くする者も少なくなかった。MSも砂漠や熱帯、寒冷地で不具合が多発した。特に高温多湿は電子機器にとって天敵である。補給もままならない過酷な状況に追い込まれた兵士たちは早く手柄を立てて、本国勤務となり、清潔なスペース・コロニーに帰りたいと願うのであった。

 地球生まれの連邦軍の兵士も都会暮らしに慣れており、過酷な前線に音を上げる者も多く、下級兵士の中には民間人に狼藉を働いたり、食糧を強奪する者もいた。こういったことから、連邦軍への不信感は募り、戦後も混乱が続くことになるのである。」

なかむら ひろしのTwitter

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