『MS-07B グフ』を解説

文:なかむら ひろし

 今回解説するMSは、TVアニメ版『機動戦士ガンダム』及び劇場版『機動戦士ガンダムII 哀戦士編』などに登場する対MS白兵戦をコンセプトに開発されたザクとは違う地上戦用MSである。主なパイロットは、ランバ・ラルやヘイブ、マーチなど。

機体解説

 地球侵攻作戦を開始したジオン公国軍は、MS-06Fの地上戦仕様であるMS-06Jを主力機として投入するが、元々は宇宙用であったこともあり、その性能に限界を感じていた。キャリフォルニア・ベースを手に入れ、地球でMSの生産、試験ができるようになったことで、地上戦用MSの開発が次々と行われることになる。まず、ジオニック社はMS-06Jを再設計し、完全な地上戦用MSとして、“YMS-07A プロトタイプ・グフ”を開発した。

 本機に求められたのは、砂漠や熱帯への対応を含めた地上戦能力と対MS白兵戦能力の強化である。ラジエーターの改良を行い、排熱の問題を改善。さらに宇宙用装備を完全に排除、装甲の改良やシールドを携行式に変更することで、軽量化と耐弾性の強化を両立。高出力ジェネレーターを搭載し、アクチュエーター出力の強化などを行っている。また、オミットされた右肩部のシールドはスパイク・アーマーに変更、パイロットの要望により、コックピット近くの装甲も強化された。

 MSの地上での運用において、もうひとつネックとなったのが“行動範囲の狭さ”である。MS-06Jの地上での走行速度は時速80km程度あったため、オデッサからアフリカ戦線や東南アジア戦線へMSを送るとなると、時間がかかり過ぎるのである。後にガウ級攻撃空母やファット・アンクルなどが開発されるが、コスト面の問題は残る。そこで考えられたのが、既存の兵器の利用である。

 “要撃爆撃機ド・ダイYS”は前方に8つのミサイル発射口を持った要塞攻撃用の爆撃機であったのだが、推力が高く、ペイロードに余裕があったため、これに乗せることで解決を図った。そのため、本来指揮官用に使われていたマルチ・ブレード・アンテナが一般機にも標準装備され、ド・ダイYSとの連携が強化されている。

○SFS(サブ・フライト・システム)の元祖

 「元々はMS単独での飛行能力の付与を目指していたのだが、技術的な問題で開発が難航。謂わば苦し紛れでド・ダイYSとの連携が行われることになった。しかし、航空機を使用した行動範囲の拡大と空中戦を可能にするという方法は非常に有効で、劇中でもホワイトベース隊を追い詰めている。これは後にSFS(サブ・フライト・システム)と呼ばれ、MS単独での飛行が可能になった後も使われ続けている。UC150年代に登場した“タイヤ”こと“アインラッド”もSFSの一種である。ただ、人的資源の乏しいジオン公国軍にとって、ド・ダイYSに人員を奪われるくらいなら、MSの数を増やす方が良いのではないかというジレンマに陥り、大きく発展することはなかった。ちなみに後のSFSはMS側から無線で操作できる無人機となっていくことになる。」

スペック
頭頂高:18.2m
本体重量:58.5t
全備重量:75.4t
ジェネレーター出力:1,034kw
スラスター推力:40,700kg
装甲素材:超硬スチール合金

 YMS-07Aの試作3号機は量産化に向けて、改良が加えられる。地上戦における機動力の低下は被弾率の上昇を招き、特に脚部の動力パイプの損傷が問題となっていたが、流体内パルス・システムの改良により、機体内部に余裕ができたため、脚部の動力パイプを内蔵し、膝関節部分の装甲も強化している。

 また、ツィマット社が同時期に開発していた“YMS-08A 高機動型試作機”はバックパックのメイン・スラスターと脚部のサブ・スラスターを組み合わせることで、機動性の向上と短距離ジャンプを可能にするというものだったが、出力不足で失敗に終わり、開発は中止される。しかし、その技術が本機に取り入れられ、短距離ジャンプが可能になった。

 さらに脚部と同様、余裕ができた腕部には固定武装が取り付けられる。右腕部にはヒート・ロッド、左腕部には75mm5連装機関砲を装備し、対MS白兵戦能力を強化している。

 こうして完成したYMS-07Bは、一部のエース・パイロットに送られる。劇中でランバ・ラルが搭乗した機体がこれである。そして、これがほぼそのままの形で量産されたのがMS-07Bである。

 初期量産モデルであるMS-07Aは固定武装の量産が間に合わず、両腕とも通常のマニピュレーターとなっており、MS-06の兵装を流用していた。また、戦術的なオプションを増やすため、両腕が機関砲となったMS-07C-1も生産されている。

 本機は地上戦用MSとしての完成度が非常に高く、様々な派生機、実験機を生み出している。しかし、一般的なパイロットでは性能を十分に活かせなかったことや固定武装の採用により、汎用性の低下や整備性の悪化を招いたこと、さらにMS-09の台頭などもあり、生産は縮小していくことになる。

基本武装

ヒート・ロッド

右腕部に内蔵された伸縮式の電磁鞭。敵機に絡みつけて、機体とパイロットの両方に電気ショックによるダメージを与えることができるだけでなく、普通の鞭としてもルナ・チタニウム合金の装甲を溶断できる火力も併せ持つが、使いこなすには相当の技術を必要とする。

75mm5連装機関砲

左腕に内蔵された機関砲。フィンガー・バルカンとも呼ばれる。マニピュレーターの五指がすべて砲口となっており、取り回しは非常に良好。火力はザク・マシンガンに劣るが、白兵戦に持ち込むための牽制用、所謂“初見殺し”の隠し武器として効果的だった。ただ、弾倉も左腕に内蔵されているため、装弾数が少なく、手持ち武装に慣れたパイロットには扱い難い。さらに通常のマニピュレーターとして機能しないなど、デメリットも多い。

グフ・シールド
左前腕部に装着。被弾率の上昇に伴い、防御面を広めた。白兵戦においても非常に有効で、デッドウェイト化を避けるため、パージ可能となっている。

ヒート・ソード

YMS-07Bに配備された試作型兵装。シールド裏にマウントされている。柄に充填された形状記憶済みの高分子化合物によって刀身が形成される。ルナ・チタニウム製のシールドを両断できるほどの火力を持つ。

○早すぎた名機

「量産機としては、ピーキーな機体だとして、辛辣な意見も多いグフだが、実は後に開発され、評価の高いMS-09よりも地上戦用MSとして優れているのはこちらである。ただ地を這うだけのMSよりもSFSや素早いジャンプを用いて空中戦を行うことができるMSの方が理論上は強いのである。問題なのは、この頃は操縦システムがまだまだ完成しておらず、一般的なパイロットが乗りこなすことのできる技術が追いついていなかったという点である。エースが乗れば強力なグフだが、飛べないグフはザク以下、早すぎた名機だと言える。」

なかむら ひろしのTwitter

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