『MS-09 ドム』を解説

文:なかむら ひろし

 今回解説するMSは、ジオン公国軍のスカートの付いた局地戦用重MS。主なパイロットは黒い三連星。

機体解説

 ジオニック社はMS-06に代わる地上戦用主力MSとしてMS-07Bを開発。要撃爆撃機ド・ダイYSとの連携によって、地上におけるMSの機動性の低さや行動範囲の狭さという問題の解決を図ったが、運用コストという課題を残してしまった。そこで、MS-07のライセンス生産を行っていたツィマット社が新たな地上戦用MSの開発に乗り出す。

 まず、新型機のテスト・ベッドとして、MS-07Bをベースに“MS-07C-5 グフ試作実験機”を開発する。固定武装やショルダー・スパイクをオミットし、新たな白兵戦用兵装“ヒート・サーベル”とグフ・シールドを装備。また、モノアイ・レールは十字型に変更され、胴体部の動力パイプが内蔵された。そして、YMS-08Aで培った推進技術を改良した新型スラスターをバックパック、両脚部に装備している。

 このMS-07C-5は1機のみが生産され、キャリフォルニア・ベースにて、データ収集のためのテストが繰り返される。その結果が概ね良好だったことから、本格的に新型陸戦用MSの開発が始まる。そして、完成したのが、“YMS-09 プロトタイプ・ドム”である。

 YMS-09の最も大きな特徴は、熱核ジェットエンジンで機体を浮かせ、熱核ロケットエンジンで推進する“ホバー走行”を可能にしたことである。これにより、脚部関節への負荷が軽減され、巡航速度は時速90km、最高速度は時速240kmにも達したとされる。また、走行を安定させるため、シールドをオミットした代わりに60mm弾程度ではビクともしない重装甲となっている。

 武装は先述したヒート・サーベルのほか、一年戦争時ではMS用携行火器としては最大級の360mmジャイアント・バズを装備。その他、胸部、腹部、腰部が分割されたブロック構造が採用され、整備性が向上。さらにOSも一新され、地球連邦軍のRXシリーズに搭載された教育型コンピュータに近いAAMC(Advanced Active Mission Control)が採用されている。

○実は飛んでいるドム

 「一年戦争時に開発されたMSには、ドムのようにホバー走行を行う機体がいくつか存在する。EMS-05がそうなのだが、こちらは空気を取り込み、その空気を圧縮して足下に放出し続けることで機体を浮かせて推進するという、純粋なホバークラフトである。それに対して、ドムの場合は熱核ジェットと熱核ロケットを併用した超低空飛行と言った方が厳密には正しい。ここまでの高速移動を可能にしたのは、実は飛んでいるからなのである。十分な稼働時間を確保するため、プロペラントの積載量が増加しているのも、機体の大型化に繋がっている。」

スペック
頭頂高:18.6m
本体重量:62.6t
全備重量:79.9t
ジェネレーター出力:1,269kw
スラスター推力:58,200kg
装甲素材:超硬スチール合金

 YMS-09の完成度は非常に高く、一部手直しが加えられた後、MS-09として制式採用されることになった。具体的には、露出していた頭部の動力パイプ、脚部スラスターを内蔵、バックパックをオミットし、胸部に拡散ビーム砲の増設などが行われている。

 MS-09はその高い機動性を活かし、連邦軍がRGM-79を完成させた後も大いに苦しめることになる。地上戦においては、ビーム兵器よりも実体弾が使われることが多く、その重装甲も無駄にはならなかった。そして、その活躍が評価され、様々な派生機が生み出されることになる。

基本武装

360mmジャイアント・バズ

H&L社製。一年戦争時のMS携行火器としては、最大級の360mm口径のロケット砲。装弾数は10発。キャリフォルニア・ベースで戦艦用の360mm規格の砲弾が大量に手に入ったことから開発された。巡洋艦クラスであれば、一撃で沈めることができるほどの火力を持つ。ドムの代名詞とも言える兵装だが、後に他のMSでも多用されることになる。

ヒート・サーベル

白兵戦用の兵装。サーベル部分を白熱化し、敵機を溶断する。ヒート・ホークとは異なり、最初から武器として作られているため、リーチが長く、高効率でエネルギーを熱に変換することができるが、消耗が激しく、基本的には使い捨てとなっている。

拡散ビーム砲
胸部に設置されたビーム砲。本来はビーム兵器を運用するためのエネルギー経路だったが、十分な出力を得ることができず、ビーム兵器自体の開発も難航していたため、固定武装として増設された。出力不足でビームが拡散してしまうため、火力は低いが、目眩ましや威嚇として使用された。

○問題だらけの傑作機

 「一年戦争時のMSとしては、非常に評価が高く、人気のある機体だが、実は問題も多い。戦後、ドム系のMSが廃れていったのには理由があるのである。

 まず、ツィマット社製ということである。別にツィマット社が悪いということではなく、ジオン公国の主力MSはジオニック社のザクである。ドムが配備されたのは大戦後期になってからであり、操縦系統や運用方法のまるで違うドムへの機種転換は困難だったということだ。

 次にドムはあくまで局地戦用MSだということが挙げられる。ドムの最大の強みはホバー走行による高速移動である。常に高速で動き回り、一撃離脱を行うのが基本戦術である。そのため、開けた大平原などでない限り、その性能を十分に発揮することはできない。密林や市街地、山岳といった障害物の多い土地では小回りが効かず、減速を繰り返すことになってしまう。動けないMSはただの的である。ジャブロー攻略戦で全く活躍できなかったのはそのためだと言える。

 もうひとつ問題なのは、水平方向の動きには強いが、垂直方向の動きには弱いという点である。地を這うだけなら優秀なのだが、機体が重く、ジャンプ能力が非常に低い。そのため、空中からの攻撃に滅法弱いのである。幸いなことに、この時期には素早いジャンプによる三次元的な攻撃を行うことができるMSパイロットはほんの一握りしかおらず、大きな弱点として露呈することはなかったが、OSが進化した後の時代では訳が違ったのである。アムロが黒い三連星と戦った際、上手く垂直方向の動きを利用しているので、是非ご覧頂きたい。

 いろいろ問題の多い機体ではあるが、大きな戦果を上げたのは事実で、傑作機であることに間違いはない。ドムの名は消えていくが、その血筋はリック・ディアスに受け継がれ、後の高性能機開発へと繋がっていくことになる。」

なかむら ひろしのTwitter

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